ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜
*
翌日、お父さんには止められたけど、私はこっそりとシャテーニュへ向かっていた。
うちの店はコンテスト明けで休業していたが、スマホで確認するとシャテーニュは営業しているようだ。そっと家を抜け出し、隣町へ向かう。
これは、敵情視察も兼ねているの。決して、愁さんのケーキが食べたいとか、そういうわけでは……半分くらい……あるけど……。電車に乗っている間、そんな風に心の中で、お父さんに見つかった時に備えての言い訳をずっと考えていた。
シャテーニュの店前には行列ができていた。
コンテストに優勝したせいだろうか、女性客でいっぱいだった。
愁さんの姿を一目見られないだろうかと、ガラス張りの壁の外から店内を覗くが、見えるのは販売員のお姉さんたちだけだった。他の人も同じことを思っているのか、愁さんの姿が見えないことにがっかりしているようだ。
私もちゃんと行列に並んでケーキを購入し、他のお客さんにぶつかられながらも、ようやく店の外に出た。
どうやってお父さんに内緒で食べようかな、などと考えながら歩いていると、交差点の角を曲がったところで男性の声に呼ばれた。
「君、待って……!」
「はい?」
足を止めて振り返ると、そこにいたのはコックコートのままの愁さんだった。
(わ、愁さん……!?)
私がライバル店の娘だから、注意しに来たのだろうか。
少し構えると、愁さんに手を取られ、なぜか店の裏手に連れて行かれた。
わ、私はケーキを買いに来ただけですよー!? お店の様子を見に来たとか、そういうわけでは……! 思わずケーキの箱を顔の前に持ってきて防御してしまう。
「君、昨日のコンテストの審査員の人だよね!?」
「は、はい。そうです……」
箱をずらして、ちらりと愁さんの方を見ると、怒っている様子はない。
むしろ、何か必死になっている風にも見える。
とりあえず、文句を言われるのではなさそうだ、と安心して箱を下ろす。
「あの、とても美味しかったです! 文句なしの満点をつけてしまいました……! 隠し味にローズマリーを使っていたところが……」
そう言った途端、愁さんは私の肩をガシッと掴んできた。
「やっぱり、君だったんだね!」
「え、え?」
「あの隠し味に気づいたのは君だけだったんだ、佐藤天音さん。君の舌を見込んでたのみがある。……僕と、付き合ってくれ!」
「……はい!?」
唐突な告白に言葉を失ってしまう。
後にはただ、セミの声が響くだけだった。
翌日、お父さんには止められたけど、私はこっそりとシャテーニュへ向かっていた。
うちの店はコンテスト明けで休業していたが、スマホで確認するとシャテーニュは営業しているようだ。そっと家を抜け出し、隣町へ向かう。
これは、敵情視察も兼ねているの。決して、愁さんのケーキが食べたいとか、そういうわけでは……半分くらい……あるけど……。電車に乗っている間、そんな風に心の中で、お父さんに見つかった時に備えての言い訳をずっと考えていた。
シャテーニュの店前には行列ができていた。
コンテストに優勝したせいだろうか、女性客でいっぱいだった。
愁さんの姿を一目見られないだろうかと、ガラス張りの壁の外から店内を覗くが、見えるのは販売員のお姉さんたちだけだった。他の人も同じことを思っているのか、愁さんの姿が見えないことにがっかりしているようだ。
私もちゃんと行列に並んでケーキを購入し、他のお客さんにぶつかられながらも、ようやく店の外に出た。
どうやってお父さんに内緒で食べようかな、などと考えながら歩いていると、交差点の角を曲がったところで男性の声に呼ばれた。
「君、待って……!」
「はい?」
足を止めて振り返ると、そこにいたのはコックコートのままの愁さんだった。
(わ、愁さん……!?)
私がライバル店の娘だから、注意しに来たのだろうか。
少し構えると、愁さんに手を取られ、なぜか店の裏手に連れて行かれた。
わ、私はケーキを買いに来ただけですよー!? お店の様子を見に来たとか、そういうわけでは……! 思わずケーキの箱を顔の前に持ってきて防御してしまう。
「君、昨日のコンテストの審査員の人だよね!?」
「は、はい。そうです……」
箱をずらして、ちらりと愁さんの方を見ると、怒っている様子はない。
むしろ、何か必死になっている風にも見える。
とりあえず、文句を言われるのではなさそうだ、と安心して箱を下ろす。
「あの、とても美味しかったです! 文句なしの満点をつけてしまいました……! 隠し味にローズマリーを使っていたところが……」
そう言った途端、愁さんは私の肩をガシッと掴んできた。
「やっぱり、君だったんだね!」
「え、え?」
「あの隠し味に気づいたのは君だけだったんだ、佐藤天音さん。君の舌を見込んでたのみがある。……僕と、付き合ってくれ!」
「……はい!?」
唐突な告白に言葉を失ってしまう。
後にはただ、セミの声が響くだけだった。