すべてはあの花のために①
「……ねえ。どうしてもダメなの?」
九条くんがオカマ口調で優しく尋ねてくれるが、それにも葵は緩く首を振る。
「はい。申し訳ないのですが。……それでは失礼します。(わたしにも負けられない戦いがあるのだ! これからの人生を、なんとしても謳歌するためにっ!)」
もう話しかけられまいと深々と頭を下げ、逃げるように理事長室を退出しようとした、その時――――。
「あんた、バカだね」
「(なっ、なんだとうう?!)」
(※本日2回目)
そんな呆れた口調で、如何にも人を馬鹿にしたように呟いたのは、九条くんの弟くんの方だった。
「(はいカッチーン。今わたしのことをバカだと! そう言ったのかい? ……なんで知ってるんだ。いやいやそれはさておき! 確かに? 本当のわたしはちょっとばかしおバカちゃんだけども? くそうっ、許すまじ九条弟! 今日の帰り気をつけて帰れよ? 背後から黒髪女のドロップキックが飛んでくるからな!)」
みたいなことを考えている葵は、今すぐにでも手を出したい衝動に駆られていたが、微笑みを顔面に貼り付けてなんとか堪えてやった。
「ど、どうしてわたしはバカだと言われているんでしょうか。確かに、来年の進学の心配をしなくて済むのはとっても有り難いことですが…」
それはそうと、バカに対しては本当に心当たりがないのだ。無駄に若干プライドの高い葵は、理由を聞いてやろうとした。……が。
「できれば、これは使いたくなかったんだけど……」
桜庭さんがポケットから取り出したのは、恐らく彼女のものであろう、可愛らしいケースのついたスマホ。
そしてそれを少しいじって、彼女はこちらへと画面を向けた。
そこに写っていたものとは――――。