クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる
「目覚めたんだな」
正面から声がしたので立ち止まる。
「近江さん」
警視庁に寄るという話だったが、ちょうど帰ってきたようだ。
「二回助けていただいて、ありがとうございました」
紗理奈が頭を下げていたら、近江が近づいてきた。
立ち止まった彼が、目の前に立ちつくした。
なんだろうと思って顔を上げると……
「堂本紗理奈、君に話がある」
「私に話、ですか? 昨日の話だったら、警察が勝手に私を見張ることに関しては目を瞑ろうと思いますから。ただ、私も特ダネを狙って張り込んでいる時には邪魔しないでください。それじゃあ」
しかしながら、近江は真顔のままだったが、少しだけ柳眉を顰めているではないか。
なんとなく読み取りづらいが、どうも緊張しているようにも見える。
いったい何を言われると言うのだろうか、ドキドキしていると、相手が薄くて整った唇をゆっくり開いた。
「俺と一緒に暮らしてもらいたい」
昨晩飲みすぎたせいだろうか、言葉の意味がすんなり頭に入ってこなかった。
しばらく考え込んでしまう。
(ん?)
一緒に暮らすと聞こえた気がしたが……
恋人作りを焦っているつもりはなかったが、深層心理では焦っているのかもしれない。
だから、単語の聞き間違いに違いない。
問い直そうとしたのだが、痺れを切らしたのか、近江の方が先に口を開いた。
「聞こえなかったようだから、もう一度だけ言う。俺と一緒に暮らしてもらいたい」
やはり頭が拒否しているのか、すんなり内容が頭に入ってこない。
今度はあからさまに近江の顔が歪んだ。
「まだアルコールが抜けていないから分からないのか? 俺の話した内容を復唱してみろ」
紗理奈は呆気に取られて何も言えない。
「いや、やはり、復唱は無理にしなくて良い、今のは後輩たちに接している時の癖だ。すまない」
「ええっと? 近江さんが私と一緒に……暮らす……!?」
やっと理解できた時には、うっかり大声で叫んでしまっていた。
今現在静かな場所なので、近所迷惑だと警察に通報されないかと心配になってしまう。
声のトーンを落としてから、ひそひそと近江に声を掛ける。
「どうして、一緒に暮らす話になったんですか? 私に会いに来たのは、保護対象の話じゃなかったでしたっけ?」
(まさか一目惚れとか……?)
さすがに美青年警察から、そんな都合の良い感情を抱かれてしまうなんてことはあるはずはない。
紗理奈自身もそうは思うが、唐突な展開に頭が付いていかない。
すると、近江が真顔のまま告げた。
「そうだな、理由か。俺のマンションから出てきたから、近隣住民どころか俺の部下たちの間でも噂が立ってしまっているだろうし……そもそも、昨晩はベッドの中で一夜を共にしてしまった。だから、責任をとりたいと思うのは、おかしいだろうか?」
「責任……!? いったい何の!?」