クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる
「ええっ……!?」
近江から放たれた衝撃的な発言の数々に、紗理奈は絶句してしまう。
「俺も女性をマンションに泊めたのは初めてだったんだ。だから、俺の責任も取ると思って……って何を言っているんだろうな、俺は」
近江が落ち込んでしまった。耳を垂らして悲しむ犬のようだ。
「ええっと、近江さんと一緒に一夜を共にした責任を私が取らないといけないということでしょうか?」
近江がキリリとした表情のまま告げてくる。
「いや、今のは言葉の綾だ、忘れてほしい」
「はあ……?」
「おかしな犯人に狙われている君のことを守るためにも都合が良いし、夫婦ならばマンションで一緒に暮らしてもおかしくはない。良い案だと思ったんだが……」
「護衛も兼ねた保護のようなもので一緒に住もうということですか?」
「ああ、そうだ。警察官が君の周囲をうろうろしていたら怪しいだろう? けれども、例えば、俺と結婚しているとかなら違和感はないと思ったんだが……」
紗理奈はピンときたため、人差し指を立てながら思い付きを口にした。
「なるほど! 期間限定の恋人や夫婦になって護衛するとか、ドラマや小説でよくある、そういうやつですか!」
すると、近江が前のめりになって勢いよく喰いついてきた。
「それだ!」
「ひゃあっ……!」
近江はといえば、紗理奈の両手をしっかり握りつつ、元の冷静沈着な雰囲気へと戻りながら、話を展開していく。
「君の言う通り、期間限定とはいえ夫婦や恋人同士になれば、君への責任を果たすことができるし、一緒に住んでもおかしくないだろう」
綺麗な顔が目の前まで迫ってきて、紗理奈の動揺は激しい。
(自分からおかしな提案をしてしまったような……?)
とはいえ、後悔先に立たずである。
「ですが、本当に私と一緒に暮らして大丈夫なんでしょうか? 実は恋人や奥様がいたりしないんですか?」
「俺は独身だから問題ない。そもそも恋人や妻がいたならば、君に交際を申し込んだりはしない」
「それは確かにそうですよね……だけど、初めて暮らす女性が私で本当に良いんですか? もっと綺麗な女性が良いなとか?」
「俺はあまり女性の美醜に興味がない」
それはそれで可愛くないと言われているようで、ちょっとだけ傷ついてしまう。
(うう、仕方ないけれど……)
まあ化粧をしたらそこそこ可愛いと思ってはいるが、準日本人的な凡庸な顔立ちだと思う。