人間が苦手なクールな獣医師が恋をして一途に迫ってきます
 次の病院がどうしても知りたいと聞かれることもあるらしく、広大さんはそういう人にはこっそりと開業するつもりで一年後には、この辺りで考えていると話をしたそうだ。
 送別会を開くと言われたそうだが、スタッフはみなさん忙しいのでと断ったらしい。なので最後の日には事務所に集まって、職場の一部のメンバーから花束と記念品が渡された。
「本当に今までありがとう。いつでも戻ってきてもいいからな」
 院長が声をかけると広大さんは笑顔でうなずいている。
 広大さんが辞めると告げた時、院長は全力で止めにかかったそうだ。
 ちなみに先日、私も三月いっぱいで退職させて欲しいことを伝えると、院長はものすごく残念そうな顔をした。
『うちの娘のことがきっかけだったんだろう?』
「いえ、夢ができたので専門学校に通おうと思っているんです」
 私が明るく答えると院長は安心しているようだった。
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