【プロット】クールな検察官はかりそめの恋人を愛し抜く
あらすじ
【あらすじ】
ヒロインの桜庭奈緒は両親と兄と共に、とある高級日本料理店に訪れていた。奈緒の父、隆の中学時代からの親友である官僚の桐生哲人とその家族と、食事をすることになったのだ。
そこで奈緒は、哲人の息子で検察官の桐生司と知り合う。
(何だか神経質で、気難しそうな人だわ……)
それが奈緒の司に対する第一印象だった。
奈緒は司の斜め向かいの席に座ることになったが、彼が背が高くて眼光の鋭い強面であるが故に萎縮してしまう。
司の妹の亜紀とは打ち解けたものの、司とは特に話が盛り上がることもなく、食事会は終盤に差し掛かる。
食後のデザートが来たタイミングで、この食事会は奈緒と司を引き合わせるのが目的だったと隆と哲人から明かされる。奈緒も司も独身で歳が近いので、双方の両親は結婚相手にぴったりだと考えていたのだ。
奈緒は断りたいものの、すっかり司との縁談に乗り気の両親を前にはっきり言い出せない。そんな彼女に、司はそれとなく助け舟を出す。
「うちの両親が勝手にすみません。いきなり結婚と言われても困ってしまいますよね。とりあえず、まずは友達からということにしませんか?」
司の提案を奈緒は受け入れ、二人は連絡先を交換して食事会は終了となる。
□
食事会の翌日。奈緒は職場のネイルサロンに出勤した際に、食事会の一件を同僚のまみと柚月に話す。
「あらあら、これまたお堅い職業の人を引き当てたわね」
柚月はそう言って、驚いて目を丸くした。
まみは司が検察官だと聞いて、公務員は安定した職業ということもあり、奈緒を羨ましがる。絶対逃がすな!と言うまみに対して、奈緒は慌てて首を振る。
「なっ、話すどころか、一緒にいて息が詰まりそうだったのよ!? 悪い人じゃなさそうだけど……真面目すぎるというか……結婚して一緒に暮らすなんて、考えられないわ!」
「そのうち慣れるわよ。ちょっとお堅いにしても、結婚相手にしたい職業、堂々の第一位と結婚するチャンスじゃない」
まみにはそう言われるものの、奈緒はやはり司との結婚を前向きに考えることはできない。
そんな奈緒に、柚月は連絡先を交換しただけなら自然消滅もありえると言う。連絡先交換も社交辞令だった可能性もあるからだ。
柚月の言葉に奈緒が安心していると、ちょうどスマートフォンに司からのメッセージが届く。
内容は映画の無料鑑賞券を手に入れたので、一緒に映画を観に行かないかというお誘いだった。
奈緒は迷ったものの、映画ならば上映中は喋らなくて良い上に無料ということもあり、誘いに乗る。
□
それから三日後。奈緒は司と待ち合わせて映画を観に行く。
司が観たい映画を選ばせてくれたこともあり、奈緒は世界的有名デザイナーのドキュメンタリー映画を選ぶ。
映画を楽しんだあと、司は「やっぱり芸術とかデザインとか……そういうクリエイティブなことがお好きなんですね」と奈緒に言う。
実は先日の食事会で、奈緒は作品展や美術展に行くのが好きと司に話していた。そのことを覚えていてくれたことに、奈緒は嬉しく思う。
別れ際に、奈緒と司は司の大学時代の友人グループと遭遇する。一緒にご飯に行こうと誘われ、奈緒も参加することになる。
□
居酒屋に移動してから、奈緒は司の友人たちから質問攻めにあう。奈緒のことを交際相手だと勘違いされていると察した司は、奈緒を友達だとみんなに紹介する。
奈緒がホッとしたのもつかの間。友人の中の一人が「司が女友達を連れてるの自体珍しい」言った。司は今まで仕事に打ち込んでおり、女っ気がまったく無かったと言うのだ。
その話を聞いて、奈緒は自分が司から特別な扱いを受けているのでは……?とつい思ってしまい、恥ずかしさのあまり赤面する。
そんな中で、氷室美玲は「子供じゃないんだから、異性の友達ぐらいいてもおかしくないんじゃない?」と発言する。
口では奈緒をフォローしているものの、言葉の節々に棘があり、美玲は奈緒に隠しきれない敵意を滲ませていた。
奈緒がネイリストだという話を聞いて、美玲は奈緒の手がけたネイルが見たいと言い出す。
奈緒がスマートフォンでこれまで手がけたネイルデザインの写真を見せると、みなが簡単の声を上げる。しかし、爪が指の長さほどあるロングスカルプネイルの画像を見て、司の友人たちは絶句してしまう。
「こんなに長い爪……まるで怪物みたいだわ」
美玲は小馬鹿にしたように奈緒に言ったものの、司は「爪の面積が広い方がたくさん色が塗れて、パーツも付けれるな」と奈緒を庇う。そんな司の気遣いに、奈緒は胸のときめきを感じる。
友人たちと別れたあと、司は奈緒に、美玲が失礼な態度をとったことを謝る。そして司は奈緒のネイルデザインがどれも素晴らしかったと褒めて、また見せてほしいと言った。ネイリストとしての腕を褒められて、奈緒は嬉しくなる。
□
飲み会から一週間後。職場での昼休み中、奈緒は司にメッセージを送ろうか迷っていた。自分の爪を新しいネイルデザインに変えて、それが会心の出来だったので「昨日から春らしいネイルに変えてみました!」と司に写真を送ってみようかと思っていたのだ。
しかし、司とのメッセージは映画観に行った日に「今日はありがとうございました」と言ったきり途絶えていた。
結局、柚月やまみに背中を押されて、奈緒は司にメッセージを送信する。
すると司も昼休みだったのか、彼からすぐに返信が来た。その内容は、ネイルを褒める言葉と、先日映画を観たデザイナーの作品展に行かないかというお誘いだった。
「めっちゃ良い人じゃない」
「返信の速さが気持ちの熱さってよく言うけど、これは激アツじゃない?」
二人からそんな風にかわれつつも、奈緒は再び司の誘いに乗ることにした。
□
それから二日後。奈緒は司と共にデザイナーの作品展に行く。
大好きなデザイナーの作った洋服が生で見られることもあり、奈緒は大喜び。作品展に行ったあとで訪れたカフェで、作品展の感想を司に一方的に喋り倒してしまう。
そんな奈緒の話を、司は「好きなことを語る人の話は、聞いていて楽しいですから」と言って、熱心に耳を傾けてくれた。
見た目に反して優しい性格の司に自分が惹かれていることを自覚した奈緒は、彼のことをもっと知りたいと考え、検察官がどんな仕事なのか司に質問する。
しかし、奈緒は司法のことに何も詳しくないため、司に説明されてもいまいちピンと来ない。
そこで司は、一度裁判の傍聴に来ると仕事内容がイメージしやすいと奈緒に提案する。
□
四日後。司に言われたとおり、奈緒は裁判の傍聴をしに裁判所に向かう。すると、偶然にも検察側の代表として司が参加していた。
裁判の中で司は、被告人を激しく追及する。そんな彼の姿を見て、奈緒は恐怖心を抱いてしまう。
□
それから一週間、奈緒は司にメッセージを送らない日が続いた。法廷の柵越しの司は、奈緒には酷く遠い存在に感じられたのだ。
奈緒は息抜きとして、久しぶりに老人ホームでのボランティア活動に参加ことを決める。それは美容師やネイリストなど、美容関係で働く人々が老人ホームに行って、老人たちにお洒落を楽しんでもらうというものだ。
奈緒が入居する老人たちの爪にマニキュアを塗ると、みな喜んでくれた。そんな入居者の姿を見て、奈緒は亡くなった曾祖母のことを思い出す。
奈緒の曾祖母は病気で足が悪くなったことにより、在宅介護を余儀なくされていた。幼少期の奈緒は、家で曾祖母の話し相手をして過ごす時間も多かった。
奈緒はお洒落が好きだった曾祖母に少しでも喜んでほしくて、曾祖母の手の爪にマニキュアを塗ることを思いつく。寝たきりであっても、自分の手ならば見て楽しむことができるからだ。
最初はマニキュアをワンカラーで塗るだけだったが、ネイルシールを貼ったり、色でグラデーショングラデーションを作ったりと、だんだんとクオリティは高くなっていった。そしてマニキュアを塗って喜んでくれる曾祖母の姿を見て、奈緒はネイリストになることを決めたのだ。
ボランティアを通して、奈緒は人に厳しく追及するのは向いていないとあらためて自覚する。そして司と自分は、結婚には向いていないのでは?と感じたのだった。
ボランティア活動の帰り、奈緒は満員電車で痴漢に遭う。しかし、恐怖のあまり彼女は助けを求めることができない。
(誰か、助けて……!)
奈緒が心の中で叫んだ時、偶然乗り合わせた司が痴漢を取り押さえた。逆上する痴漢にも彼はひるむことなく立ち向かい、奈緒を守ってくれたのである。
その後、奈緒は助けてくれたお礼も兼ねて司をお茶に誘う。二人でカフェに来たあと、奈緒は司に検察官の仕事は辛くないかと質問する。
痴漢に対しても、被告に対しても、司は容赦なく追及していた。そこまでの厳しさを保てる司の気持ちが、奈緒には理解できなかったのだ。
奈緒の問いかけに対して司は、「辛くないといえば嘘になります。でも法廷に立つ検察官は、遺族や被害者にとって最後の砦に他なりません。だから絶対に、妥協は許されない。そのひと言で、踏みとどまっているのかもしれません」と言った。
そこで奈緒は、司の厳しさが「誰かを守るためのもの」であると理解して、一層彼に惹かれていく。しかし一方で、司とはあくまで友達という限られた関係であることに歯がゆさを感じる。
司とお茶をしながら雑談していると、偶然にも美玲もカフェにやって来る。奈緒がボランティア帰りと聞いた美玲は、奈緒を子供たちに勉強を教えるボランティア活動に誘う。
□
十日後。奈緒は司と美玲と共に、ボランティア先に向かう。
そこでは経済的な事情で塾に通えない子供たちに、ボランティアが無償を勉強を教える活動を行っていた。
司は大学の受験勉強に励む高校生を担当することになり、奈緒と美玲は小学三年生の女の子一人を任される。
しかし開始早々、美玲は「中学生の子を教えてくる」と言って、奈緒に仕事を押しつけてどこかに行ってしまう。
仕方なく奈緒は女の子を一人で見ることにしたが、生意気な彼女への対応に手を焼く。
宿題をやってくれず困っていると、女の子は奈緒のネイルをした爪に興味を持つ。それをきっかけに、奈緒は彼女と打ち解けることに成功する。そして無事に、女の子に宿題をさせることができた。
今まで、女の子はボランティアの誰とも話さなかったようで、彼女と仲良くなった奈緒はボランティアたちから感謝される。生意気な子供にも優しく接する奈緒に、司は密かに思いを募らせていた。
□
その翌日、休みが合ったこともあり奈緒と司は水族館に出かける。
司は奈緒に、正式に付き合ってほしいと告白する。奈緒は嬉しく思うものの、優秀な彼に気後れしてしまうがゆえに頷けない。
そんな気持ちを吐露すると、司は父親たちのことを話題に出す。
司の父親の哲人は、昔から絵が苦手だったという。しかし、それを唯一笑わなかったのが奈緒の父親である隆だった。
それを聞いた奈緒は、隆が中学時代は病弱で、運動神経が悪いせいで「折れそうな枝」という酷いあだ名が付けられていたものの、哲人だけはそう呼ばなかったという話を父親が言っていたことを思い出す。
司からすれば芸術の才能がある奈緒は尊敬する存在であり、父親たちのように、足りないところを補い合って歩んでいきたいと、司は言った。
その言葉に心を動かされた奈緒は、ようやく司と付き合う決意をする。
水族館を楽しんだあと、奈緒は司の家に泊まることになる。
司の家の本棚には法律関係の難しい本がたくさん並んでおり、奈緒は圧倒されてしまう。しかし、聡明な彼に釣り合うよう努力したいと思い直す。
晴れて両思いになった二人は、甘い夜を過ごしたのだった。
□
司と付き合い始めてから半月後。ネイルサロンの予約サイトで、奈緒が担当した客から「家に帰ったらネイルのパーツがすぐ取れた」というクレームの書かれたレビューが投稿される。奈緒は客に電話するものの、着信拒否されていたため連絡が取れなかった。
それからというものの、奈緒が担当した初回来店の客複数人からクレームの書かれたレビューが次々と届く。落ち込んでもいられないと、奈緒は奮起してプライベートでもネイルアートの練習に打ち込む。
司の家に遊びに行って映画を観ていた時、奈緒は疲れていたこともあって途中で寝てしまう。起きたら司に膝枕されており慌てて謝ると、彼からは仕事であまり無理をしないようにと言われたのだった。
□
それから数日後、奈緒は司とカフェでデートすることになるが、司が仕事の都合で到着が遅れるため、先に店内で待つことにした。
すると奈緒は、カフェの近くの席で美玲と女性二人が言い争っているのを目撃する。
女性たちは美玲に、「ネイルサロンに覆面モニターとして来店することは聞いていたけど、その後クレームのレビューが投稿されるなんて聞いてない」と食ってかかっていた。どうやら美玲は女性たちを金で雇って奈緒のネイルサロンに行かせて、その後クレームのレビューを投稿していたのだ。
奈緒が美玲たちの傍に近寄ると、美玲はその場から逃亡する。奈緒は慌てて彼女を追いかけるが、その途中で美玲が道路に飛び出して彼女は車に轢かれそうになる。
奈緒も道路に飛び出して美玲を助けるために彼女の身体を押したものの、代わりに奈緒が車に轢かれそうになる。
奈緒が強く目を瞑った瞬間、車に轢かれるギリギリのところで司が助けに来る。しかし奈緒を庇ったことにより、司は怪我を負ってしまう。
□
美玲は高校時代から、司に片思いしていた。彼を追って同じ大学の同じ学部に入学したものの、プライドが邪魔をして社会人になってからも告白できずにいた。
そんな中、司の女友達として奈緒が現れる。奈緒の存在は、美玲からは邪魔で仕方がなかった。奈緒を攻撃するため、勉強が苦手そうな彼女を勉強ボランティアに誘ったり、クレームのレビューの投稿をしていたのだ。
司が交通事故に遭ってから数日後、美玲は入院する彼を見舞いに行く。そこで美玲は、「貴方は気づいてなかったけど、私はずっと貴方が好きだった」と告白する。
だが実は、司は美玲の想いに気づいていた。その上で彼は、美玲の気持ちに応えなかったのだ。
何がダメだったのか、気の強い女が嫌いなのか、と美玲は司を問い詰める。彼は、「似たもの同士だったから」と言う。誰かに守られるより守りたい、どちらもそういう性格だから合わないと思ったのだと。
美玲は本来、面倒見の良い性格だった。勉強ボランティアでも子供たちにきっちり勉強を教えていたし、そんな彼女を頼る人はたくさんいた。気持ちに応えないものの、司はそういう美玲の良さも十分に理解していた。
「お前の勝気な性格を魅力だと思ってる人もいる。だから、そういう人と幸せになってくれ」
美玲に対して、司はそう言った。
そこまで話していたところで、奈緒がお見舞いにやって来る。美玲は身構えたものの、奈緒は嫌な顔ひとつしなかった。それどころか、カットフルーツをたくさん買ってきたから一緒に食べないかと美玲を誘う。
そんな奈緒の姿を見て、美玲は彼女には勝てないと思い、病室を後にした。
□
それから数日後、奈緒と美玲はクレームのレビュー削除と謝罪により正式に和解した。
司のお見舞いに来た奈緒は、司にイチゴを食べさせていた。利き手を骨折して使えないことを理由に、司が頼んできたのだ。
お見舞いにくるたび、司は理由をつけて奈緒に甘えていた。奈緒が困惑しつつ理由を尋ねると、司は「甘やかされるより甘やかしたい性格だと思ってたけど、たまには甘やかされたいと思っただけ」と返答する。そんな司に、奈緒は惚れた弱みで強く断れない。
司は奈緒に、甘えさせてくれたお返しは、指輪でどうか?と尋ねる。それは遠回しなプロポーズに他ならなかった。
突然のプロポーズに、赤面する奈緒。そんな彼女を可愛いと言いながら、司は奈緒にキスをした。
終
ヒロインの桜庭奈緒は両親と兄と共に、とある高級日本料理店に訪れていた。奈緒の父、隆の中学時代からの親友である官僚の桐生哲人とその家族と、食事をすることになったのだ。
そこで奈緒は、哲人の息子で検察官の桐生司と知り合う。
(何だか神経質で、気難しそうな人だわ……)
それが奈緒の司に対する第一印象だった。
奈緒は司の斜め向かいの席に座ることになったが、彼が背が高くて眼光の鋭い強面であるが故に萎縮してしまう。
司の妹の亜紀とは打ち解けたものの、司とは特に話が盛り上がることもなく、食事会は終盤に差し掛かる。
食後のデザートが来たタイミングで、この食事会は奈緒と司を引き合わせるのが目的だったと隆と哲人から明かされる。奈緒も司も独身で歳が近いので、双方の両親は結婚相手にぴったりだと考えていたのだ。
奈緒は断りたいものの、すっかり司との縁談に乗り気の両親を前にはっきり言い出せない。そんな彼女に、司はそれとなく助け舟を出す。
「うちの両親が勝手にすみません。いきなり結婚と言われても困ってしまいますよね。とりあえず、まずは友達からということにしませんか?」
司の提案を奈緒は受け入れ、二人は連絡先を交換して食事会は終了となる。
□
食事会の翌日。奈緒は職場のネイルサロンに出勤した際に、食事会の一件を同僚のまみと柚月に話す。
「あらあら、これまたお堅い職業の人を引き当てたわね」
柚月はそう言って、驚いて目を丸くした。
まみは司が検察官だと聞いて、公務員は安定した職業ということもあり、奈緒を羨ましがる。絶対逃がすな!と言うまみに対して、奈緒は慌てて首を振る。
「なっ、話すどころか、一緒にいて息が詰まりそうだったのよ!? 悪い人じゃなさそうだけど……真面目すぎるというか……結婚して一緒に暮らすなんて、考えられないわ!」
「そのうち慣れるわよ。ちょっとお堅いにしても、結婚相手にしたい職業、堂々の第一位と結婚するチャンスじゃない」
まみにはそう言われるものの、奈緒はやはり司との結婚を前向きに考えることはできない。
そんな奈緒に、柚月は連絡先を交換しただけなら自然消滅もありえると言う。連絡先交換も社交辞令だった可能性もあるからだ。
柚月の言葉に奈緒が安心していると、ちょうどスマートフォンに司からのメッセージが届く。
内容は映画の無料鑑賞券を手に入れたので、一緒に映画を観に行かないかというお誘いだった。
奈緒は迷ったものの、映画ならば上映中は喋らなくて良い上に無料ということもあり、誘いに乗る。
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それから三日後。奈緒は司と待ち合わせて映画を観に行く。
司が観たい映画を選ばせてくれたこともあり、奈緒は世界的有名デザイナーのドキュメンタリー映画を選ぶ。
映画を楽しんだあと、司は「やっぱり芸術とかデザインとか……そういうクリエイティブなことがお好きなんですね」と奈緒に言う。
実は先日の食事会で、奈緒は作品展や美術展に行くのが好きと司に話していた。そのことを覚えていてくれたことに、奈緒は嬉しく思う。
別れ際に、奈緒と司は司の大学時代の友人グループと遭遇する。一緒にご飯に行こうと誘われ、奈緒も参加することになる。
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居酒屋に移動してから、奈緒は司の友人たちから質問攻めにあう。奈緒のことを交際相手だと勘違いされていると察した司は、奈緒を友達だとみんなに紹介する。
奈緒がホッとしたのもつかの間。友人の中の一人が「司が女友達を連れてるの自体珍しい」言った。司は今まで仕事に打ち込んでおり、女っ気がまったく無かったと言うのだ。
その話を聞いて、奈緒は自分が司から特別な扱いを受けているのでは……?とつい思ってしまい、恥ずかしさのあまり赤面する。
そんな中で、氷室美玲は「子供じゃないんだから、異性の友達ぐらいいてもおかしくないんじゃない?」と発言する。
口では奈緒をフォローしているものの、言葉の節々に棘があり、美玲は奈緒に隠しきれない敵意を滲ませていた。
奈緒がネイリストだという話を聞いて、美玲は奈緒の手がけたネイルが見たいと言い出す。
奈緒がスマートフォンでこれまで手がけたネイルデザインの写真を見せると、みなが簡単の声を上げる。しかし、爪が指の長さほどあるロングスカルプネイルの画像を見て、司の友人たちは絶句してしまう。
「こんなに長い爪……まるで怪物みたいだわ」
美玲は小馬鹿にしたように奈緒に言ったものの、司は「爪の面積が広い方がたくさん色が塗れて、パーツも付けれるな」と奈緒を庇う。そんな司の気遣いに、奈緒は胸のときめきを感じる。
友人たちと別れたあと、司は奈緒に、美玲が失礼な態度をとったことを謝る。そして司は奈緒のネイルデザインがどれも素晴らしかったと褒めて、また見せてほしいと言った。ネイリストとしての腕を褒められて、奈緒は嬉しくなる。
□
飲み会から一週間後。職場での昼休み中、奈緒は司にメッセージを送ろうか迷っていた。自分の爪を新しいネイルデザインに変えて、それが会心の出来だったので「昨日から春らしいネイルに変えてみました!」と司に写真を送ってみようかと思っていたのだ。
しかし、司とのメッセージは映画観に行った日に「今日はありがとうございました」と言ったきり途絶えていた。
結局、柚月やまみに背中を押されて、奈緒は司にメッセージを送信する。
すると司も昼休みだったのか、彼からすぐに返信が来た。その内容は、ネイルを褒める言葉と、先日映画を観たデザイナーの作品展に行かないかというお誘いだった。
「めっちゃ良い人じゃない」
「返信の速さが気持ちの熱さってよく言うけど、これは激アツじゃない?」
二人からそんな風にかわれつつも、奈緒は再び司の誘いに乗ることにした。
□
それから二日後。奈緒は司と共にデザイナーの作品展に行く。
大好きなデザイナーの作った洋服が生で見られることもあり、奈緒は大喜び。作品展に行ったあとで訪れたカフェで、作品展の感想を司に一方的に喋り倒してしまう。
そんな奈緒の話を、司は「好きなことを語る人の話は、聞いていて楽しいですから」と言って、熱心に耳を傾けてくれた。
見た目に反して優しい性格の司に自分が惹かれていることを自覚した奈緒は、彼のことをもっと知りたいと考え、検察官がどんな仕事なのか司に質問する。
しかし、奈緒は司法のことに何も詳しくないため、司に説明されてもいまいちピンと来ない。
そこで司は、一度裁判の傍聴に来ると仕事内容がイメージしやすいと奈緒に提案する。
□
四日後。司に言われたとおり、奈緒は裁判の傍聴をしに裁判所に向かう。すると、偶然にも検察側の代表として司が参加していた。
裁判の中で司は、被告人を激しく追及する。そんな彼の姿を見て、奈緒は恐怖心を抱いてしまう。
□
それから一週間、奈緒は司にメッセージを送らない日が続いた。法廷の柵越しの司は、奈緒には酷く遠い存在に感じられたのだ。
奈緒は息抜きとして、久しぶりに老人ホームでのボランティア活動に参加ことを決める。それは美容師やネイリストなど、美容関係で働く人々が老人ホームに行って、老人たちにお洒落を楽しんでもらうというものだ。
奈緒が入居する老人たちの爪にマニキュアを塗ると、みな喜んでくれた。そんな入居者の姿を見て、奈緒は亡くなった曾祖母のことを思い出す。
奈緒の曾祖母は病気で足が悪くなったことにより、在宅介護を余儀なくされていた。幼少期の奈緒は、家で曾祖母の話し相手をして過ごす時間も多かった。
奈緒はお洒落が好きだった曾祖母に少しでも喜んでほしくて、曾祖母の手の爪にマニキュアを塗ることを思いつく。寝たきりであっても、自分の手ならば見て楽しむことができるからだ。
最初はマニキュアをワンカラーで塗るだけだったが、ネイルシールを貼ったり、色でグラデーショングラデーションを作ったりと、だんだんとクオリティは高くなっていった。そしてマニキュアを塗って喜んでくれる曾祖母の姿を見て、奈緒はネイリストになることを決めたのだ。
ボランティアを通して、奈緒は人に厳しく追及するのは向いていないとあらためて自覚する。そして司と自分は、結婚には向いていないのでは?と感じたのだった。
ボランティア活動の帰り、奈緒は満員電車で痴漢に遭う。しかし、恐怖のあまり彼女は助けを求めることができない。
(誰か、助けて……!)
奈緒が心の中で叫んだ時、偶然乗り合わせた司が痴漢を取り押さえた。逆上する痴漢にも彼はひるむことなく立ち向かい、奈緒を守ってくれたのである。
その後、奈緒は助けてくれたお礼も兼ねて司をお茶に誘う。二人でカフェに来たあと、奈緒は司に検察官の仕事は辛くないかと質問する。
痴漢に対しても、被告に対しても、司は容赦なく追及していた。そこまでの厳しさを保てる司の気持ちが、奈緒には理解できなかったのだ。
奈緒の問いかけに対して司は、「辛くないといえば嘘になります。でも法廷に立つ検察官は、遺族や被害者にとって最後の砦に他なりません。だから絶対に、妥協は許されない。そのひと言で、踏みとどまっているのかもしれません」と言った。
そこで奈緒は、司の厳しさが「誰かを守るためのもの」であると理解して、一層彼に惹かれていく。しかし一方で、司とはあくまで友達という限られた関係であることに歯がゆさを感じる。
司とお茶をしながら雑談していると、偶然にも美玲もカフェにやって来る。奈緒がボランティア帰りと聞いた美玲は、奈緒を子供たちに勉強を教えるボランティア活動に誘う。
□
十日後。奈緒は司と美玲と共に、ボランティア先に向かう。
そこでは経済的な事情で塾に通えない子供たちに、ボランティアが無償を勉強を教える活動を行っていた。
司は大学の受験勉強に励む高校生を担当することになり、奈緒と美玲は小学三年生の女の子一人を任される。
しかし開始早々、美玲は「中学生の子を教えてくる」と言って、奈緒に仕事を押しつけてどこかに行ってしまう。
仕方なく奈緒は女の子を一人で見ることにしたが、生意気な彼女への対応に手を焼く。
宿題をやってくれず困っていると、女の子は奈緒のネイルをした爪に興味を持つ。それをきっかけに、奈緒は彼女と打ち解けることに成功する。そして無事に、女の子に宿題をさせることができた。
今まで、女の子はボランティアの誰とも話さなかったようで、彼女と仲良くなった奈緒はボランティアたちから感謝される。生意気な子供にも優しく接する奈緒に、司は密かに思いを募らせていた。
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その翌日、休みが合ったこともあり奈緒と司は水族館に出かける。
司は奈緒に、正式に付き合ってほしいと告白する。奈緒は嬉しく思うものの、優秀な彼に気後れしてしまうがゆえに頷けない。
そんな気持ちを吐露すると、司は父親たちのことを話題に出す。
司の父親の哲人は、昔から絵が苦手だったという。しかし、それを唯一笑わなかったのが奈緒の父親である隆だった。
それを聞いた奈緒は、隆が中学時代は病弱で、運動神経が悪いせいで「折れそうな枝」という酷いあだ名が付けられていたものの、哲人だけはそう呼ばなかったという話を父親が言っていたことを思い出す。
司からすれば芸術の才能がある奈緒は尊敬する存在であり、父親たちのように、足りないところを補い合って歩んでいきたいと、司は言った。
その言葉に心を動かされた奈緒は、ようやく司と付き合う決意をする。
水族館を楽しんだあと、奈緒は司の家に泊まることになる。
司の家の本棚には法律関係の難しい本がたくさん並んでおり、奈緒は圧倒されてしまう。しかし、聡明な彼に釣り合うよう努力したいと思い直す。
晴れて両思いになった二人は、甘い夜を過ごしたのだった。
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司と付き合い始めてから半月後。ネイルサロンの予約サイトで、奈緒が担当した客から「家に帰ったらネイルのパーツがすぐ取れた」というクレームの書かれたレビューが投稿される。奈緒は客に電話するものの、着信拒否されていたため連絡が取れなかった。
それからというものの、奈緒が担当した初回来店の客複数人からクレームの書かれたレビューが次々と届く。落ち込んでもいられないと、奈緒は奮起してプライベートでもネイルアートの練習に打ち込む。
司の家に遊びに行って映画を観ていた時、奈緒は疲れていたこともあって途中で寝てしまう。起きたら司に膝枕されており慌てて謝ると、彼からは仕事であまり無理をしないようにと言われたのだった。
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それから数日後、奈緒は司とカフェでデートすることになるが、司が仕事の都合で到着が遅れるため、先に店内で待つことにした。
すると奈緒は、カフェの近くの席で美玲と女性二人が言い争っているのを目撃する。
女性たちは美玲に、「ネイルサロンに覆面モニターとして来店することは聞いていたけど、その後クレームのレビューが投稿されるなんて聞いてない」と食ってかかっていた。どうやら美玲は女性たちを金で雇って奈緒のネイルサロンに行かせて、その後クレームのレビューを投稿していたのだ。
奈緒が美玲たちの傍に近寄ると、美玲はその場から逃亡する。奈緒は慌てて彼女を追いかけるが、その途中で美玲が道路に飛び出して彼女は車に轢かれそうになる。
奈緒も道路に飛び出して美玲を助けるために彼女の身体を押したものの、代わりに奈緒が車に轢かれそうになる。
奈緒が強く目を瞑った瞬間、車に轢かれるギリギリのところで司が助けに来る。しかし奈緒を庇ったことにより、司は怪我を負ってしまう。
□
美玲は高校時代から、司に片思いしていた。彼を追って同じ大学の同じ学部に入学したものの、プライドが邪魔をして社会人になってからも告白できずにいた。
そんな中、司の女友達として奈緒が現れる。奈緒の存在は、美玲からは邪魔で仕方がなかった。奈緒を攻撃するため、勉強が苦手そうな彼女を勉強ボランティアに誘ったり、クレームのレビューの投稿をしていたのだ。
司が交通事故に遭ってから数日後、美玲は入院する彼を見舞いに行く。そこで美玲は、「貴方は気づいてなかったけど、私はずっと貴方が好きだった」と告白する。
だが実は、司は美玲の想いに気づいていた。その上で彼は、美玲の気持ちに応えなかったのだ。
何がダメだったのか、気の強い女が嫌いなのか、と美玲は司を問い詰める。彼は、「似たもの同士だったから」と言う。誰かに守られるより守りたい、どちらもそういう性格だから合わないと思ったのだと。
美玲は本来、面倒見の良い性格だった。勉強ボランティアでも子供たちにきっちり勉強を教えていたし、そんな彼女を頼る人はたくさんいた。気持ちに応えないものの、司はそういう美玲の良さも十分に理解していた。
「お前の勝気な性格を魅力だと思ってる人もいる。だから、そういう人と幸せになってくれ」
美玲に対して、司はそう言った。
そこまで話していたところで、奈緒がお見舞いにやって来る。美玲は身構えたものの、奈緒は嫌な顔ひとつしなかった。それどころか、カットフルーツをたくさん買ってきたから一緒に食べないかと美玲を誘う。
そんな奈緒の姿を見て、美玲は彼女には勝てないと思い、病室を後にした。
□
それから数日後、奈緒と美玲はクレームのレビュー削除と謝罪により正式に和解した。
司のお見舞いに来た奈緒は、司にイチゴを食べさせていた。利き手を骨折して使えないことを理由に、司が頼んできたのだ。
お見舞いにくるたび、司は理由をつけて奈緒に甘えていた。奈緒が困惑しつつ理由を尋ねると、司は「甘やかされるより甘やかしたい性格だと思ってたけど、たまには甘やかされたいと思っただけ」と返答する。そんな司に、奈緒は惚れた弱みで強く断れない。
司は奈緒に、甘えさせてくれたお返しは、指輪でどうか?と尋ねる。それは遠回しなプロポーズに他ならなかった。
突然のプロポーズに、赤面する奈緒。そんな彼女を可愛いと言いながら、司は奈緒にキスをした。
終


