逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
「蓮さん。シャワー浴びてくる?」

 私はお客さま用のバスタオルを手渡した。蓮さんは「ありがとう」と短く答えてくれたけれど、目を合わせてはくれなかった。

──いつもなら、微笑みかけてくれるのに。昨日、タクシーを待っていたときと同じ、どこか不安げな揺れが見え隠れしている。

 もしかして、実家に来たことを後悔してるんじゃ……そう考えて、私は少しだけうつむいた。蓮さんには、私の生まれ育ったこの町を好きになってほしかったのに。

「薫」

 蓮さんがバスルームへ向かったのを見届けて、おばあちゃんが私を呼んだ。

「帰る前に、ちょっと蓮くんと話をさせてもらえない? 二人きりで」

 私はおばあちゃんを見た。おばあちゃんがこんなふうに言うのは、「理由は聞かないで」という意味が込められているときだ。

 昨日のことでお説教でもするつもりなのだろうか。女は怖いんだから気をつけなさい、とか。

 でも、昨夜のおばあちゃんの表情を思い出すと、どうしてもそうは思えなかった。あのときのまなざしは、嫌悪でも叱責でもなく……もっと複雑で、深い感情だった。

「わかった。蓮さんに伝えておくね」

 おばあちゃんは、優しく、そして力強く頷いた。
< 147 / 590 >

この作品をシェア

pagetop