逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 ──そうか、航はあんな思いをしているのか。

 私たちから離れていく航と浅川さんの背中を見送りながら、私は静かに考えた。

『田舎の生活』の脚本を自分の名前で発表したことで、彼が得たものは大きかったかもしれない。ただし、失ったものも想像以上に多かったのだろう。

 航は気鋭の脚本家として脚光を浴びつつも、浅川さん以外の取材を断っている。社内でも、その作品について語ることはほぼなかった。

 それはきっと、今のように物語の詳細やシーンの背景について聞かれたときに、ボロが出てしまうからなのだろう。

 だとしたら、デビュー作が話題になっているというのに、彼はドヤ顔ひとつできないのかも。

 疲れるだろうな。もちろん同情なんてしないけれど。

 私はその考察を手帳に書きたかったが、なんだか気分が沈んだのでやめておいた。この気持ちを文字にして残したくないような気がしたのだ。

「どうしたんだろう、安斎さん」

 蓮さんが着席し直しながら、少し心配そうに言った。

「さぁ、……心配ごとでもあるのかもね。それよりも、お料理を食べましょう」

 私は話題を変えるように、グリル野菜のピカディージョ・サラダを指差す。

 彼は少し考えるような顔をしていたけれど、ふっといつもの笑顔を取り戻してフォークを手に取った。

「そうだね、食べようか。最初に来たのが冷たいアペタイザーでよかった」

 蓮さんの優しい笑顔に、私もつられて笑う。今はただ、この穏やかな時間を大切にしたい、そんな気持ちになった。
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