逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 だけど、その次の言葉で私の心に小さな棘が刺さる。

「指輪も、契約の報酬として受け取ってほしいんだ」

 穏やかで冗談めいた口調。でも……そうだ、蓮さんにとって私は「契約の妻」にすぎない。

「明日、会社の帰りに待ち合わせて、一緒に選ぼうか?」

 何でもないふうに、ぶっきらぼうを装って「了解、ボス」と答えたけれど、胸の奥に沈んだ小さな痛みがゆっくりと広がっていくのを止められなかった。

「ボスは君だよ。好きなのを選んでくれ」

 蓮さんは目を細めて微笑む。いつもの洗練された印象がふっとほどけて、どこか幼さを感じさせる笑顔だ。

 目じりがほんの少し下がった無防備な表情に、心がまた少し揺れた。

 この人の中に、どれだけ触れたいと思っても触れられない部分がある。だけど……その深くに触れたいと、強く願ってしまう。

 私の中で、蓮さんという人間の輪郭が少しずつ形作られて、特別な存在になっていくのを感じた。

 なんだかくすぐったくて、嬉しくて……そして切なかった。
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