雑記帳(inベリーズカフェ)2025vol4:初手から完結ボタン&チェック三度目♪

(オマケ・転載)漫画「セシルの女王」感想/政略結婚と継承問題(女王・女帝の難しさ)

※vol5で書いた記事の転載。こちら(vol4)は完結ボタンの後なので宣伝ボタンは使えないが、プロフィール・代表トップ表示にしてあるので。


近ごろにカフェで漫画「セシルの女王」(作者・こざき亜衣)なんてのを読んでみた。
過去・他に女流漫画のヨーロッパ歴史物だと「チェーザレ破壊の創造者」(惣領冬実、イタリアのチェーザレ・ボルジア)なんてのを大昔に読んだ覚えがある(未完結だった?ので途中までだが)。そのチェーザレはルネサンス期のイタリアの有力家系の御曹司で、悪徳と辣腕で知られた人物(マキャベリなどには政治手腕と意志力で救世主・救国英雄として期待されていたが、不運も重なって失敗。イタリアの織田信長みたいなものか?)。塩野七生(歴史作家・研究家)にも扱った本がある(新潮文庫)。

なお、この手の作品は歴史ファンタジー・フィクション創作物であって、あくまで歴史を元にしたファンタジーである(少し調べるだけで話が作られたもので、史実・事実とは異なって同一視はできないとわかる)。
日本の幕末を描いた有名作品「おーい、龍馬」などでも、画力や描写の上手さで史実に忠実と誤解されがちだが、実際は少し調べれば「話や人物像を好きに作っている虚構」だとわかるはず。

(参考)
・メアリー1世 (イングランド女王)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%BC1%E4%B8%96_(%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E5%A5%B3%E7%8E%8B)
※エリザベスの異母姉
・ウィリアム・セシル (初代バーリー男爵)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%82%B7%E3%83%AB_(%E5%88%9D%E4%BB%A3%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC%E7%94%B7%E7%88%B5)
※漫画と比べれば、史実は異なっている。



1
話を戻して「セシルの女王」(漫画作品)。
イギリスのエリザベス女王の誕生前・幼少期の話で、セシルは主人公の青年。なお英仏の歴史は自分はあまりよく知らないけれど(史実に忠実かは別として)、物語や人物の(フィクション創作物の)描き方としては味がある。
よくある政略結婚や、跡継ぎの男児欲しさでてんやわんやするところから話は始まる。一族のために「どうせ政略結婚の道具にされるなら」と年配の国王ヘンリー八世の愛人(二人目の妃)になったアン・ブーリン(エリザベスの母、新興ブルジョアの平民出身)。せっかく懐妊したが生まれたのは死産や女児(エリザベス)で、まだ出産(帝王切開?)の疲れや傷が治らないにも関わらず「早く次の子を妊娠しなければ」と焦るのが、生々しい悲壮感で女性作家ならでは(?)。
なお、史実のアン・ブーリンはそれなりに悪女で手段を選ばないところがあったらしく、前妃(スペイン王女)を追い落としてその娘メアリー(エリザベスの異母姉)を虐待・抑え込み(娘の侍女扱いにしようとしたり、毒殺未遂まで?)しようとしたらしい。この漫画でも史実でも処刑されているが、漫画「セシルの女王」では同情的にかなり美化されている(家のために政略結婚の道具にされた被害者としての面が強調されている)。


2
歴史を元にした創作物ファンタジーではあるのだけれども、異母姉メアリー(後のメアリー女王)や父親のヘンリー八世についても、人物造形は(史実とは異なるかもしれないが)秀逸。
異母姉メアリーはエリザベスに「あなたのことは嫌い」と言いながらも(アン・ブーリンから母親と自分が受けた仕打ちからすれば、好きだったら逆におかしいわけだが)、必ずしも悪人ではないことや本来は善良な性格として描かれる(単なる敵・ライバル関係の「悪役」にしなかった描き方がフィクションとしては良いw)。エリザベスに対しても特に殺意や嫌がらせするでもなく、異母弟に対しては本気で病状を心配して看病していたり。
また父王ヘンリー八世についても、横暴な性格ではありながら、彼なりに自国(イングランド)や王家への責任感で苦悩していたことは(しばしば冗談混じりに)随所に描かれる。好色であったのは事実でも、あえて離婚を繰り返したのは「継承権のある男児欲しさ」(庶子でなく有利な嫡子にしたい)という思惑があった。また身分の低い有能な者を抜擢して善政を敷かせたり(「善人ではなくとも政治的な理想を託せる頑丈な王」とされる)、病気を押してスコットランド(北部)の平定に赴くなど(作中ではやや戯画化されるが分裂危機に対処しようとした?)。作中では「国民には人気がある」ように描かれていたが、有能で国民のために働いたという意味では、(個人的な悪徳・欠陥や失敗は別として)国民にとっては「そう悪くない王様」だろう。


3
たとえ(歴史を元にした)フィクションやファンタジーではあるにしても、王家という特殊な立場ゆえに、普通では済まないという難しさを話・創作物として上手く描いてはいると思う。それはキャラクター造形だけではない。
一例(作者がどこまで意図・自覚的にやったかはわからないが)、メアリーの母妃キャサリン(アン・ブーリンによって追い落とされたスペイン王女、キャサリン・オブ・アラゴン)が幽閉されて、娘のメアリーとも面会を許されない。しかし、このエピソードも一見は酷いようでも「王家」として考えれば、どうだろうか? キャサリンはスペイン王女であって、もしも放置していれば実家のスペインと結びついて策謀や反乱する危険もあるから、たとえ本人が悪くなくとも「危険人物」として警戒せざるを得ない。実際(史実)でも、メアリー女王は親戚であるスペイン王家から婿をとって、それによって「スペインによるイギリスの属国化」という政治的なリスクが出てきてイギリス国民から猛反発されたらしい。


4
この辺りが、実は女王や女帝の難しさの一つである。結婚が原因で乗っ取られたり属国化されるリスクがつきまとう。
ドイツのハプスブルク家(皇帝家)などでもマリア・テレジア女帝は有名だが(形式的には妃であって夫が入り婿の皇帝)、婿のロートリンゲン家は名門閥で皆が納得できる血筋。日本でいえば、旧宮家(皇室の分派)から婿を貰って襲名させるとか、鎌倉幕府が(源氏血統の将軍家が絶えたあと)摂関家の藤原氏や皇族の親王(皇子)を養子にして後を継がせたとかに近い。そもそも中近世のドイツ皇帝(神聖ローマ皇帝)は有力諸侯の互選と教皇の任命であるため、必ずしも一つの家系にこだわらない(日本の天皇家と事情が異なって、むしろ幕府の将軍家に近い)。
あのジャンヌ・ダルクの英仏百年戦争(中世末期)もまた、「女系の王位継承を認めるか?」という争いであった(たまたまブルゴーニュの本を読んでいて時代背景を調べていて知ったのだが)。当時のイギリス王家は大陸・フランス側に結婚や出自の関係で飛び地を持っており(フランスの大諸侯を兼ねていた)、しかもフランス王家とも婚姻関係で「母方からフランス王家の血筋を引いていた」。そのためにイギリス王がフランス王の継承(フランスへの支配権)を主張し、当然ながらフランス側はこれを拒否して戦争勃発。しかもイギリス(イングランド)はフランス王家の分派だったブルゴーニュ(ベルギーなど)を味方に抱き込み、フランスはイギリス北部(スコットランド)と結託し、断続的に百年も戦争・大乱闘。
これが「女系の王位(皇位)継承のヤバさ」である。

(※)ドイツ皇帝(になった)家は五つくらいあって、源・足利・徳川の将軍家に近い。ロートリンゲンの入り婿は(発祥時に皇帝家と一応は親戚ではあるが)門地はあまり高くなく、周囲の批判もあったらしい。家門名もハプスブルクからハプスブルク・ロートリンゲンに偏向され、新しい家系の創始とも見做される。


5
なお、日本の天皇家・皇室では皇位継承は男系血統によっており、女帝はいても女系の継承はされていない。また女性皇族の通常の最高位は神宮(伊勢)の斎宮(斎王)と京都の斎院であって、最も信頼できる天皇の近親の内親王が就任する(天皇代理の最高神官で「天皇に霊的庇護や神託を与える」地位だから、絶対的に信用できる女性皇族を選ぶ)。
なお男性が斎王になれないのは(宗教的理由は別として現実の政治として)、ヨーロッパの叙任権闘争(皇帝と教皇の権力・管轄争い)のように天皇と対立したり派閥争いになるから。現在も、実は今の天皇陛下の妹内親王(既婚)が伊勢神宮の祭主(斎王)をやっており、おそらく次期は愛子様(旧宮家のプリンスと結婚して新しい宮家、皇位継承候補の家門を創始?)。
よくアホな(というよりは悪意がある)左翼マスコミや自称有識者が「愛子様を次期の天皇に」と騒いでいるのは、ただの皇室や日本への破壊工作プロパガンダである。騙されてはいけない。
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