ぶーってよばないで!

冬季講習

【小百合ヶ丘学園】
「ぶー助けて!」
「瑛里どうしたの?って。だから、ぶーって呼ばないで!」
「私、もう参加したくないの!お願い、ぶー!」
瑛里がいつものポーズで私を拝む。
「あ〜冬季講習ね!本宮先生から言われたのね!」
「ぜんぜん楽しくなかったし!もう嫌だ!」
「そう?帰りに三人であんみつ屋さんにも寄れたし、楽しかったじゃん!」
「それは楽しかったよ、周司が荷物全部持ってくれたし!」
「楽しかったの、そこ?」
「とにかく!私、もうあんな窮屈な思いしたくないの。大学なんてどこでもいいの!」
「え⁉︎瑛里、東京芸術大学行きたいんじゃないの?」
「もう別にいい。ピアノもそんなに好きじゃなくなったし!」
瑛里は昔から言い出したら聞かない。よく言えば意志が強いけど、悪く言えば…。
「真瑠璃ちゃ〜ん、瑛里ちゃ〜ん!」
よっ!救世主登場!
「周ちゃん!聞いて!絵里が、冬季講習行かないって聞かないの。」
「え⁉︎瑛里ちゃん、冬季講習行かないの?」
「行かないの!周司に言われたって絶対いかないからね、ベーだ。」
「一緒に行こうよ!入試前の最後の勉強のチャンスだよ?」
「私ね、もうどこの大学でも良いの!そもそも、周司やぶーみたくピアノがうまいわけでもないし!」
「僕は、瑛里ちゃんの演奏大好きだよ!」
「やめて!そんなこと言われたって行かないもんね、ベーだ。」
「私も瑛里の演奏大好きだよ!」
「とにかく‼︎もう、あんな窮屈な思いはしたくないの!」
「わかった!瑛里、篤人くんと離れ離れになるのが嫌なんでしょ?そうでしょ?」
ニヤリと笑いながら瑛里を見る私に、思いもよらない返事が返ってきた。
「もう、とっくの昔に別れた。」
「え⁉︎」
別れた⁉︎うそ⁉︎
恒例の電話攻撃がなかったから全然知らなかった。
「とにかく‼︎ちょっと考えておく。」
「瑛里ちゃん、考えると言っても締切は今週金曜日だよ。」
「分かってる!後ろ向きに考えておく!」
そう言って、瑛里はさっさと教室へ戻っていった。 
< 23 / 32 >

この作品をシェア

pagetop