すべてはあの花のために③

 葵はしばらく、みんなが雑魚寝したであろう部屋を見渡した。


「念願の『友達の家で枕投げ』は達成できなかったな……」


 そう思いながら膝を引き寄せて、床をツンツン突いているといきなり戸が開く。思わず「あ」と声が漏れた。
 開けた戸から入ってきたのはチカゼとヒナタ。葵の姿を確認すると、チカゼは猛ダッシュで葵のところまで来て膝立ちになり、肩をガッチリ掴んでくる。


「もう大丈夫なのか⁉︎」

「う、うん。大丈夫だ。それよりも、ちゃんと着てくれ……」


 お風呂上がりなのか、彼らの髪は濡れていて。肩にはタオルと、ほのかに石けんの香りが。それにきちんと着てないものだから、前がはだけて引き締まった体がちらリズムである。
 チカゼは慌てて「みっ、見んな変態‼︎」と言いながら、着物を前でぎゅーっと合わせて葵から距離を取る。

 ……え。何それ。
 めちゃかわじゃない。


「――カチッ」

「い、今なんか変なスイッチが入った音がした……というか、言った?」

「気のせいだチカくん」


 葵は両手を軽く前に出して、キョンシーが如くチカゼとの距離を詰めていく。


「お、お前。目がイッてるぞ」

「それも気のせいだ。それよりもチカくん。何故逃げるんだい」

「いやいや。お前こそ、何で近寄ってくんだよ」


 チカゼは前をしっかり押さえながら、ズルズルと後退っていく。


「それは、本能がそう言っているからだ」

「お、おいおいおい。ほんとに変態化したのかよ、お前は」

「ふふふふふふふふっ」

「こわっ⁉︎」


 そんなチカゼの危機にも関わらず、ヒナタはスマホをいじっている。
 そうしてとうとうチカゼの逃げ場がなくなり――――。


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