すべてはあの花のために④
ここで見送ろうとしていたことに気づいたのか。彼女のやさしい先回りに笑顔を返しながら、一緒に茂みの方へ歩いて向かう。
「それはそうと、動物のお世話は大変でしたか?」
「うん。それはもう」
「でも、一昨日は楽しかったんじゃないですか?」
「どうせみんなと遊んだんですよね?」と、何でもお見通しの彼女にトーマはお手上げ。
「うん。最高に楽しかったよ」
振り回されたけど、やっぱり居心地がよかったのは本当だ。
「ですよねー。わたしも、みんなといるのが楽しいし嬉しいし、幸せです。もちろんトーマさんも入ってますからね?」
「あー……もうっ。葵ちゃん! やっぱり帰らないで!」
「と、トーマさん?!」
なるべく冗談に聞こえるように、本音を叫びながら抱きつく。すると案の定。
「今すぐそいつから離れろっ!」
「アオイちゃんから今すぐ離れて!」
「あおいチャンから離れろおー!」
「(こくこく!)」
「杜真最低」
「アンタ、やっぱりサイテーだわ」
「…………(カシャ)」
「いや日向。だから、あんたはそれでいいんかい」
結局のところ隠れるのも限界になって、みんなが飛び出してくる落ちに行き着く。
「お前ら結局出てくるんじゃん」
「おおー! みんなこんなところで奇遇だねー!」
「いや、あっちゃん絶対気づいてたでしょ……」
――やっぱりみんな、最高の友達だ。
「それじゃあみんな! 帰ろっか!」
夕日に照らされた葵の笑顔が眩しくて、男性陣に強烈なダメージを与えてしまうのも、それを見て「あらまー!」とはしゃぐ元婚約者も、最早いつもの見慣れた風景だ。
それから船に乗り、ライトアップされた渦潮を見下ろす。綺麗だとはしゃぐ迫力満点の渦に、身を乗り出そうとする葵を、全員で一斉に引っ張ってひっくり返った。
らしくない。こんな子供っぽいこと。
でも、たまにはこんな風にはしゃぐのも、いいのかもしれない。