すべてはあの花のために④

「いった~い。みんなして叩かなくても……」

「叩きたくもなる」

「ごめんごめん」


「まあまあ座って?」と、眼鏡を外したシントは、みんなをソファーや椅子へと促して飲み物を準備し始める。


「シン兄。葵はどこだ」

「ほんとに葵が好きだねえ。俺には負けるけど」


 その飲み物が出てくるのでさえ待てないアキラに、部屋についている簡易キッチンから顔を出しながら笑って答えるシント。そして、どや顔のシントに苛立ちをあらわにするみんなに、キサは一人大きくため息をついた。


「まあそんなに焦らないで。ちゃんと話すから」


 それから飲み物の準備できて、やっと話ができる状態に。
 しっかりと待たされたおかげで、シントへと向けられるみんなの視線は完全に敵視も同然。特にアキラ、アカネ、ツバサの三人の眼光は鋭く、敏感に彼の態度に探りを入れている。


「……あの、信人さん。あたしたちわからないことがいっぱいあるんですけど」

「うんそうだろうね。ああそういえば紀紗ちゃん、怪我は大丈夫だった?」

「はい。それはもうすっかり。でも、今はそんな話がしたいわけじゃないんです」

「ははっ。うんそうだね。ごめんごめん。……正直、こうして面と向かって話せると思ってなくて。新鮮……というか、結構本気で嬉しくてついつい」


「ごめんね」と。もう一度謝るシントの表情はとても穏やかで。あれだけ苛立っていったみんなは――。


「こんなに小さかったのに。みんな大きくなってえ……」

「年寄りかっ!」
「(こくこく!)」


 ……みんなは、もう疲れ切っていた。



「さてと。みんなは桜李くんの家以来、葵とは会ってないよね?」


 ようやく話し出してくれたシントに、みんなは小さく頷く。


「その時の様子がおかしかったと思うんだけど、これは俺の口からは言えないことだから、どうしても聞きたいなら葵にでも直接聞くといい」


 シントの空気が変わり、みんなの背筋が伸びる。


「まあそれから帰ってきて、昨日は一日中用事をしていた」

「用事って、確か家庭のですよね?」

「葵がそう言ったのならそうなんじゃない?」


 以前と同じ、張り詰めた空気感にアキラとアカネとツバサが苦しそうに顔を歪ませる。


「まあそれは置いといて。……用事はしていたよ。一日中ね」


 そしてシントは、縄だらけのベッドに視線を向ける。あれが不思議でならなかったみんなも、シントの様子を窺いながら彼の視線を追う。


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