すべてはあの花のために④
「これはオレの勘ですけど、チカの言うとおり、あいつはここへ戻ってくるとは思います」
「まあそうだろう。葵はここに帰ってくる。だって葵は、駒だからね」
わざとそんな言い方をするシントに、みんなの空気に苛立ちがこもる。
けれど、そんな雰囲気の中ヒナタはただ淡々と「それと」と付け加えた。
「あいつはここの駒らしいですけど、その駒はちゃんと家に言って、それの了承は得ている」
葵が『生徒会の友人の家に泊まる』ことを。
「それから、プリザーブドフラワーを作る日数とあいつが持って行った服の日数分が一致するから、乾かす頃にはここに戻ってきていると思う。あと、道着を持って行ってるってことは、本当に『何か』を修行するつもりではいるんだろうね」
そう言ったヒナタは、ちらりとアキラを見る。
「オレが思うに、アキくんとのことだと思うけど」
少しだけ落ち込んだように俯くアキラを見つめてから、一度ゆっくりとヒナタは目を閉じて開いた。
「オレがそう思ってるだけだよ。でも心配だったら、あいつのとこに行って、直接聞けばいいんじゃない?」
「はい。だからこの話はこれで終わり」と、ヒナタはソファーに座ってスマホを突き始める。他のみんなからは、葵が心配で不安でしょうがないとひしひしと伝わってくるけれど、何故かヒナタだけは落ち着き払っていた。それが彼のスタンスなのかもしれないが。
「(千風くんじゃない。彼が知っているんだ『何か』を)」
そんなシントに感化され、みんなの視線がヒナタへと集まっていく。
「え、何。帰ってくるんだから、放っておけばいいと思うんだけど」
「帰ってこなかったらどうするの?!」
「キサ、言ったじゃん。シントさんも言ってたでしょ? あいつはここに帰ってくるって」
「そ、……そうだけどっ」
「だからそれまで、あいつを笑顔で出迎える練習でもした方がいいんじゃないの。特にアキくん」
「うっ。そ、それは、そうなんだが……」
それでもはっきりとしないみんなに大きくため息を落としたヒナタは「最後あんな別れ方したんでしょ」と。そう言ってようやく、みんなは弾かれたように顔を上げた。
「ハイハイ気づけてよかったねー」と適当に言いながら、ヒナタはスマホを持ったままパチパチとみんなに拍手を送る。一人達観した様子に、シントは間違いないだろうとヒナタに尋ねた。