すべてはあの花のために④
「あー俺、今初めて受験生でよかったって思ったよ」
トーマは受験生のため、授業がなく講習は自由参加。葵がこっちにいる間は講習を休むことにしたようです。
昼時の駅の改札口。端から見れば、遠距離恋愛中の恋人同士が久し振りの感動の再会をしているようにも見えましたが。
「わー本物のあおいちゃんだー! 夢みたい。あ、髪切ったんだねー。ボブもすっごい似合ってるー」
「あーハイハイ。アリガトーゴザイマス」
最初は真っ赤に見えた彼女の顔が、今はほとほと呆れた顔で耳を穿っているので、周りの人は一方通行の恋か……と、彼を心から応援したとかしていないとか。
「……あの、トーマさん? そろそろ離しません?」
「いやだ。もうちょっとだけ」
そしてトーマがずっと抱きついているので、身動きが取れない葵である。でも「ぎゅう~」と言ってすごく嬉しそうに抱きつくものだから、しばらくはそっとしておいてあげることにした。