すべてはあの花のために⑦
今日は一緒にご飯を食べよう!
新婦控え室で、着替え終わったアイが、そう話をしてくれた。
ただ苦しそうに。つらそうに。言い終わったアイは、葵に縋り付くように抱き締めてくる。
「……アイくん?」
葵もドレスに着替え、化粧も施し、一応髪型もセットして準備は万端だったのだが。
「……ティッシュを、取ってあげたいんですが……」
「(……ずずず……)」
さっきから彼の鼻を啜る音が尋常じゃなかったので、一言そうなんとか伝える。顔を上げてくれたアイは、涙もぽろぽろ出ていて。鼻水も、……出てきそうなのをなんとか止めていた。
「……ふふっ」
ほんと、なんで自分のまわりの男の子たちは、こんなにも泣き虫なのだろう。
「(そこが可愛いんだけど)」
みんなのことを思い出して、少しセンチメンタルになる。
顔を上げたはいいけれど、葵にくっついて離れそうになかったので、葵が引っ張って取り敢えずティッシュが置いてある机のところまで行くことに。
「はい。思う存分かんでください。涙も、今なら誰も見てないですから」
「うぅぅ~……」
葵の腰に腕を回し、やっぱり抱きついてくる彼の頭を、やさしく撫でてやる。
「(きっと、こういうことも、彼もあの時からしてもらえなかったんだろうな)」
そして、我が儘を言うことだって、泣くことだってできなかった。我慢をたくさんしてきたんだろう。
ほんの一時の間でも、アイを甘やかしてやりたいと思った。
「えらいえらい。よく頑張ったね、あおいくん」
「……!! ……。あおい、さん……」
二人して、お互いの名前を呼び合う。
「……なんか、変な感じ」
「はは。……道明寺 あおい、だもんね。二人とも」
まだ目元に涙が残る彼の頭を、ずっと撫でてやる。
「……他には?」
「え……?」
「他に。して欲しいこと、あるかな? あおいくん」
「……あおい、さん……?」
「今まで我慢してきたご褒美だ! わたしにどんと甘えなさいな!」
「え? ええ……??」
目元の涙を指でやさしく掬ってやる。
「ほら。あおい? お母さんに何でも言ってみなさい? 今まで頑張ってきたから、奮発しちゃうぞ~」
「……あおいさんっ」
「本当のお母さんにはなれないけど。……それでも、今のわたしにできる君の願いを、叶えてあげるよ?」
「…………。じゃあ。おれから。ね……?」
「え……?」
「……あたま。なでてほしい……」
「ほいっ! お安いご用!」
撫でるというか、もはやわしゃわしゃ~! っと、折角セットした彼の髪をぐしゃぐしゃにする。
「わわわ。……ははっ。ありがと。……じゃあ次は、褒めて欲しいな」
「かっこいい!」
「え? ……いや。頑張ったねって、さっき言ってたからそう言ってもらえればよかったんだけど」
「すごい!」
「あ、アバウト~……」
「よく頑張ったね!」
「……。うん」
「よく我慢した!」
「……。う、ん」
「……守ってくれて、ありがとう」
「え?」
「他は?」
「……手、つないで……?」
「ほいっ」
「……。ぎゅって。して……?」
「ほ~い!」
「……!?」
頭を抱き締められて、アイは体を硬直させていた。
「あれ? 違った?」
「い、いや。……ありがとう、ございます。……いろいろ」
ほんの少し腕を緩めてくれたとこから、葵の顔を見上げる。
「……きす。してほしい」
「……うん。わかった」
そう言って葵は姿勢を正す。
「……目、つむって欲しいな」
「……、はい」
アイは少ししゃがんで瞳を閉じた。