すべてはあの花のために⑦

わたしは最高に幸せ者だっ




 むかしむかし

 あるところに


 自分の名前をなくしてしまった花が

 ありました


 名前をなくしたその花は

 いつもいつもひとりぼっち


 増えていくのは悲しみと絶望

 重なっていくのは重い罪


 そんなかわいそうな花にも

 ほんの少しの間だけ

 とっても幸せな時がありました


 その時だけは

 笑えました


 胸の中が

 あたたかくなりました


 声を聞くだけで

 嬉しい気持ちに


 話をするだけで

 楽しい気持ちに


 姿を見るだけで

 愛おしい気持ちに


 たくさんのいろんな愛を知りました



 そしてとうとう

 黒い花が開きます


 赤い花は

 悔しさを


 緑の蕾は

 感謝と謝罪を


 そっと心に語りかけます



 守れなかった

 ただそれだけを


 ありがとうと

 ごめんなさいを



 花が消えるその瞬間まで

 何度も何度も言いましたとさ




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