すべてはあの花のために⑦
ただ信じて待ってて
「……。え……」
「オレは、もう一人のハナが、ハナを消しちゃうんだって知ってる」
「……な。んで……」
「それは秘密。また思い出したら話してあげるね」
時々落ちそうになる彼女の体を、そっと腰に手を回して支えてあげる。
「でもハナの名前を呼んであげても、ハナが消えなくなったとしても。……ハナはずっと、あそこに囚われたままだ」
「……ひなた。くん……」
「ハナが、……自分自身を許してあげないと」
「……! ……い。いや……っ」
その言葉だけで十分だったのだろう。自分が、彼女がしてきた罪を知っているんだと。
いやだ。いやだっ。こわい。こわいっ。
恐怖で震えだす彼女の背中を、やさしく撫でてやる。
「何がいや? オレは、ハナのこと全部知ってるけど、ハナのこと嫌いになんてならないよ」
「え。……ぜ、んぶ……」
涙でいっぱいの目が、きょとんとなる。それがちょっと可愛くて、ほんの少しだけ笑ったあと、すっと顔を戻す。
「オレは、ハナを苦しめた奴が許せない。ほんと、殺してやりたいくらいに」
「……だ。だめっ……」
「うん。ハナならそう言うんだろうなって、ちゃんとわかってる。……これからオレは、勝負に出るよ」
彼女の首の裏に手を添えて頭を起こしてやり、視線を合わす。
「オレが、悪い奴ら全員、捕まえてあげる」
「――……! だ。だめ……っ」
そう言ったらまた、小さく体が震え出す。涙も、流れて落ちてくる。
きっともう、誰かがいなくなるのは嫌なんだろうな。
「なんで? そしたらハナ、もう悪いことしなくてよくなるよ?」
「……あぶ。ない……」
「ハナ……」
「もう。……いなく。なんないで……っ」
必死に、ない力を振り絞って。
自分の服を掴んでくる彼女が。自分のことよりも他人のことを思っている彼女が。……本当に、何よりも愛おしい。
「……ありがとう。でも大丈夫。流石にオレも、もうハナと離れたくなんてないからね」
涙でいっぱいの目元にキスをする。
「……!」
「ハナ、大丈夫。……オレだけだったら流石に無理だけど、強力な仲間をつけたからね」
「……な。かま? ……っ。みんなはっ……」
「ううん。みんなじゃないんだ。でも信用できる。ハナの嫌いな、警察さんじゃないからね」
「……? きらい……?」
「ちゃんと役に立つ人たちだよ」
「……。人なのに。ものみたい……」
「まあね。オレが使ってるし」
目の前の彼女の顔が、若干引き攣ってるような気がしなくもないけど。
……でも、これは本当の話だ。嘘なんかじゃない。
「ハナも、よく知ってる人たち」
「……? ……わかん、ない……」
「大丈夫。ハナはただ、これ以上無理するのだけやめてね」