すべてはあの花のために⑦

どうせならタンスから守って


『只今より、新生徒会お披露目式を行います』


 講堂の壇上の幕が、ゆっくりと音も立てず上がっていく。


『まずは、今年も生徒会長に選ばれました皇くん。挨拶をお願いします』


 司会を担当してくれているのはコズエだ。彼女はキクと一緒にこの一年、生徒会の管理者として補助の任に就いていた。


「(というのは建前だけど。わたしの監視が目的だから)」


 四六時中、休めるところなどどこにもない。部屋にもレンは付いているし、彼が束の間席を外した時しか、葵の時間はなかった。


「(ま、そんなちょっとした時間も有効に使わせてもらいますけどねー)」


 一人一人、挨拶をしていく。


「(……あ。やってるやってる。靴紐しっかり結んでおかないとね。今からみんなのネクタイ奪いに行くんだから)」


 去年は確か、チカゼと一緒に体育倉庫に逃げ込んだ。


「(懐かしっ。わたし、何とかだゼーッ(ト)ってやってた気がするわ)」


 あの頃を思い出して、葵からは小さな笑みが零れる。


「(……ほんと。本当に楽しかった。嬉しかった。……幸せ、だった)」


 昨日も、振り返るだけで、本当は涙が出てきそうだった。


「(……もう、泣ける場所なんか、どこにもない)」


 たった一人で。枕を濡らすだけだ。


「(みんな、全然納得してないんだろうな。今日も朝から痛い痛い……)」


 一体何度、『ちゃんと説明しろ』って睨まれただろうか。


「(わたしだって話したい。話せることなら最初から話してる)」


 でも、もう話せない。だって、ずっと見られている。


「(生きてる心地、全然しない)」


 これじゃあもう、死んでいるようなものだ。


「(でも去年は全然そんなこと思わなかった。楽しかったもんなー。……欲が出ちゃったのかな。最低で、罰当たりのくせに)」


 葵も名前が呼ばれ、マイク前に立った。


『生徒会庶務に選ばれました、3年の道明寺 葵です。去年に引き続いて、今年も選ばれたこと、とても光栄に思います。……皆様も気づいている方が大半だと思いますが、今年は何故生徒会メンバーが九名ではなく十名なのか。その原因はわたしにあります。諸事情で、もう少ししましたらしばらく学校を休むことになっています。なので、わたしの勝手な申し出ではありましたが、理事長の方に、もしわたしが選ばれるようなことがあればもう一人。次に投票が多かった人も生徒会に入れてもらうようお願いをしていました。快く引き受けてくださった理事長並びに先生方には、とても感謝しています』


 葵は先生が座っている方へと頭を下げる。


「(なーんて建前だけど。実際レンくんの投票数なんて知ったこっちゃないけど、レンくんにしてくれって、わたしがそこまで理事長にお願いしたんだ。……まあそれを、お願いと取るか脅しと取るかは理事長の受け取り方次第だけど)」


 頭を上げて、もう一度マイクを口元へ。


『なのでわたしの勝手ではありますが、お休みをいただくまでしっかり生徒会の仕事を熟し、桜をよりよい学校にしていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い致します』


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