すべてはあの花のために❽

「(……たぶんだけど、わかりやすいように言ってくれたんだろうな……)」


 ロシア語なんて知ってるんだ。ハナは、頭がいいんだろう。……オレも、がんばろ。


「……知ってるし」

「あ! 拗ねてる! かわいいっ」


 別に拗ねてるわけじゃないし。負けず嫌いなだけだし。かわいいって言われても嬉しくないし。


「名前……。花……」


 オレがそう言うだけで、「うんうん!」と嬉しそうに声を上げるハナが。……かわいかった。


「……花の、名前……?」

「うん! そうそう! すごーい!」


 そう言ってパチパチと手を叩いて褒めてくれるけど、……ちょっと恥ずかしい。悔しくて、そっぽを向いてしまう。


「ハナちゃん頭いい。いいなー」

「え? ……そんなこと、ないよ」

「??」


 褒めたのにハナの顔が暗くなった。……聞かない方が、いいかな。
 そう思って、もう一度もらった絵本を見る。

 絵本って言ってるくせに、表紙には題名だけ。緑色に白い文字で、そう書いてあるだけ。……これは、一体どうしたんだろう。


「どうしたの? こんな絵本、見たことない」

「……これね? 世界に一個しかないの」

「え……!?」


 そんなことを言われて驚いてしまった。
 珍しい絵本だなと思ったら、そういうことだったのか!
 オレは慌てて手を離してしまったけど、また慌ててキャッチした。……危ない。世界で一つのものに傷をつけるところだった。


「……ど、どうしたの!?」


 どうしたのか、だって? 金銭感覚がおかしいくらい金持ちなのか!?


「世界に一つしかない……。ハナちゃんの家はお金持ち……。絶対にこれ。めっちゃ高い。高級な絵本だあぁ……」

「え? ルニちゃん? 大丈夫?」


 大丈夫じゃないし!


「……こ、こんな高価なものっ、いただけないよ!」


 そう言ってオレは、絵本を返そうとする。


「え? 高価なものじゃないよ? だってこれ、タダでもらったんだし」

「ただでもらった……? ……それくらいハナちゃんの家は有名で。お、お嬢様だったのかあああぁ……」


 タダより高い物ってないよ~。とち狂ってる~……。


「る、るにちゃ~ん。……ほんとこれ。そんな価値はないと思うよ?」

「うそばっかり! 絶対高いもん! ……どうしよお……。指紋つけちゃったあ……」


 どうしよう! 紛失とかしたら。
 ……オレ。この世から抹殺されるかもしれない。


「だ、だから。これ、本当にもらいものなんだって。趣味で描いてる人からもらったから、本当に0円だし」


 ……な~んだ。


「……最初から言ってよー」


 そう言われてほっと一安心。なんだー、趣味で描いてる人ね。なるほどなるほどー。


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