すべてはあの花のために❾

場所


「はい。濡れタオル。これで目元冷やしなよ」

「あり、がと……」


 ボロボロと、泣きすぎて結構腫れてしまったアオイの目を、濡れタオルで取り敢えず押さえる。


「あと、オレが出ていったらシャワーも浴びなよ。ベタベタだろうし」

「え。行っちゃうの……?」

「いやわかってよ。オレの気持ちもさ」

「わ、わたしの気持ちも。わかって欲しい」

「(いや、そう言う意味で言ったんじゃないんだけど……)」


 まあいいんだけどね。……はあ。


「にしてもさ、なんで? アオイの時間でもないのに、あいつだって無理したわけじゃないのに。気絶してないのに、アオイが出てきたの?」

「あれ、すっごく美味しくて! カ〇ピ〇ソ〇ダ!」

「え……」

「それでさ! これはわたしが直接味わいたいっ! と思ってだね! 葵も美味しいって思ったんだけど、わたしも美味しさに感動してさ!」

「…………」

「しかも目の前にアキラがいるし! もうテンション超上がっちゃって!」

「…………」

「それで出てきちゃうわ、アキラに触りたいわ、美味しいわ。……あ、でも葵に嫌われないといけないからっと思ったらああなって……え。ひ、ひなた?」

「そんなことでアオイは出て来ちゃったんだー」

「いっ、……痛いっ! 痛いってばっ……!」


 ギリギリ……と、アオイの頭を鷲掴みにする。


「やっぱり修行が全然足りてないみたいだねーアオイ?」

「うぎゃー……!!」

「もう一回滝にでも打たれてくるー? あ。それともここから飛び降りてみるー? 15階だけど、まあアオイならそれでも足りないだろうから屋上にでも行こっかー」

「やめてやめてー! あたっ。……頭が割れるうー!」


 そうやって叫んでるアオイの頭を掴んだまま部屋を出ようとする。


「ちょちょちょちょ!! ごめんごめんごめんねー! ヒナタ様々! ……そうか! あれでしょ! ヒナタも葵にチューしたいんでしょ!? ほら!! 思う存分するが良し」

「ああそうかー。屋上なんかじゃなくって水死にしよう、うん。取り敢えずシャワー浴びに行くー?」

「いやいやいや! 水死とか言ってるから!! 脱がせようとしないでえー……!!」


 浴衣の帯を引っ張ろうとしたら、涙目でアオイが必死に止める。


「……いやさ、なんでぶっ飛ばそうとかしないの」

「え……?」

「そういうとこが無防備なんだよね。アオイもあいつも」

「…………」

「もうちょっとそっち方面は強くなってよ。お願いだからさ……」

「ひなた……?」


 ズルズルと、今度はオレが壁にもたれながらへたり込む。


「……いや。なんでもない。いいんだ。オレは別に……」

「……ヒナタ」

「違うから。何でもないから。アオイが暴走するのは止めるけどさ」

「……ふふ。ひーなたっ」

「……なに」


 へたり込んだオレの隣に、アオイも座り込む。


「妬いたの?」

「……べつに」

「いや妬いたんでしょ?」

「……誰も妬くような奴いないし。だって、さっきアキくん襲ってたのアオイだし」

「いや、葵でしょ?」

「…………」

「葵が、オタクにもチューされたから嫉妬してんでしょ?」

「……べつに。関係ない」

「その割りには落ち込んでますけど?」

「落ち込む……と言うより、呆れてる」

「え」

「ほんと、警戒心なさ過ぎて困るよ。ほんと」

「…………」

「まああいつが誰を選んだって、オレには関係ないんだけどね」

「え。……ちょ、ヒナタ。それ、どういうこと」

「そのままの意味」

「どういうこと……!? ヒナタは葵が好きじゃないの……?!」


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