すべてはあの花のために❾

 ――でも。


「……うん。知ってるんならいい」

「……! ひ、なた……?」

「ごめんねツバサ。言えなくて」

「……お前は。知ってるのか」

「ごめん。言えないんだ」

「日向……」

「ちゃんとさ。あいつの口から聞こうね。いろんなこと」

「……ああ。そうだな」


 そう思ってちらり、あいつのことを見たら、なんかちょっと体調が悪そうだった。


「(やっぱり、体は大丈夫でも、心の方は難しいか……)」


 あとで何か、いいものがないか探してみよう。


「だから、別件だ」

「え?」


 そう言ってツバサがオレに視線は合わせずに、あいつを見つめながら話し出す。


「俺が聞かれたから、おかしくなったあいつを止めたのは俺だって言った」

「……そう。ありがとうツバサ」

「さっきもだけど、なんで自分から言ってやらないんだよ。一昨日は手繋いでたくせに」

「あれは、あいつが悪いから」

「は?」

「……いや。何でもない。自分から行かないのは、行けないからだ」

「なんで」

「近づいたら近づいた分だけ、あいつもオレに近づくことになるから」

「……まだ母さん、お前のことハルナって呼ぶのか」

「そうだね。なかなか呼んでくれないから、オレもよくわかんなくなるよ」

「は!? ちょ、それは流石に」

「ああ大丈夫だよ? 母さんは元気だし、なんかほんと、ハルナがいるみたいでいいよね」

「日向、それは違う」

「……わかってるよ、ちゃんと」

「日向」

「もうちょっとさ? 頑張ってみるよ。ツバサも早く家に入れられるようにさ?」

「手伝うから」

「ううん。こっちは任せて。ツバサは、……早くハルナのことで、父さんが折れてくれるといいね」

「……そう、だけど」

「父さんも頑固だよねー。それに不器用だし。……ほんと、ちゃんと話して欲しいよね」

「……日向?」

「ううん。なんでもない。……ちょっと外の空気吸ってくる」


 ツバサから離れて、オレは外へと向かった。



「……わからないって。もうヤバいじゃないか……」


 父のことも、母のことも、弟のことも。なんとか救ってやらないと、と思った兄貴が動くのは、もう少し後の話……。

 それから最南端の島に着いたんだけど……。


「(今度は何? 険しい顔して……)」


 どこかおかしいあいつを見てたら、オウリがオレのところへ来て、あいつを同じように見る。


「あーちゃん、どうしたのかな……」

「わかんない。それにさっき、船で気分悪そうだった」

「え……?!」

「多分だけどね。オウリ、行ってあげてよ」


 小声でそう言ったら、オレの方へ少し視線を向けたあと、あいつの元へと行った。


「……はは。『お前が行け』って言われたんだけど」


 いや、言われてはないんだけどね。目が言ってたよね、うん。


「(……まあ、大丈夫か)」


 オウリが行ったら、何を話してたのかはわからないけど、最終的には笑顔になってた。やっぱり小動物を召喚しておいて正解だった。
 船の中でも、オウリがあいつに話しかけてやってたから、気が紛れたかなって思った。

 それから、ダイビング組と観光というか、お土産買っておけよ組に分かれたんだけど。


「(オウリはさっきのこともあるしね。ツバサも多分、オレが船のことを言ったから、あいつがダイビングをしなかったんだろうって勘付いてるだろう。……まあそもそも、泳げるかどうかが危ういけどね)」


 分かれたあと、今日は暑いっていうのにあいつが砂浜でなんか探し出したから。


「あっつ。早く日陰入ろうよ。熱中症になるよ」


 体調が悪いんだから、さっさと涼しいところに入らないと倒れるでしょ。……ったく、体調管理くらい自分でしてよね。


< 119 / 227 >

この作品をシェア

pagetop