すべてはあの花のために❾


「はい。それじゃあこれ」

「ありがとうございました」


 ナツメさんから録音機器を回収。二人の表情はどこか暗かった。


「あいつ、なんか言ってましたか」

「「…………」」

「思うところは人それぞれだと思います。それでもあいつは、二人と話せてよかったと。そう思ってるはずです」

「日向くんは、知っているのね。全部」

「全部は、わからないんです。だから知りたい。……こんなことをしないと助けられないのが悔しいですけど」

「たとえ葵ちゃんがそれを嫌がろうと、自分のことを嫌いになろうと、葵ちゃんを助けてやりたいんだろう?」

「……嫌われるのはキツいですけど、嫌われてもしょうがないだろうなとは、思ってます」

「大丈夫よ。葵ちゃんが日向くんを、みんなを嫌うことなんて、絶対にないわ」

「……だと、嬉しいです」


 ……でもきっと。オレが汚いことを知れば、あいつはオレから離れていってしまうだろうから。


「あ。あとね、葵ちゃんから聞いたんだけど、明日の朝ここを発つらしいの」

「はい? どういうことですか?」

「今日だけうちの道場で修行するんだって」

「え。じゃあ……(今日は、寝ないつもりか)」

「明日から日曜日の午前中までは、近所のお寺さんで本当に修行するみたいよ?」

「え? ……もしかして、西園寺さん?」

「知ってるの?」

「……キサの、生みの親がいるとこですよね」

「「……!!」」

「そっか。西園寺さんか」


 ツバキさんから一度、《旦那と縒りを戻しました!》ってメールもらってたから、多分あの人もそこにいるか。


「西園寺さんにも、協力してもらうのかい?」

「……できれば、していただきたいと思ってるんですけど」

「味方は多い方がいいと思うわ」

「……アヤメさん」


 二人が、やさしくオレに笑いかけてくれる。……こんなオレに。


「……そう、ですね。あいつが行く前に、直接話をしに行きたいです」

「わかったわ」

「それに、ちょっと……いや。ぶっ殺される覚悟で謝りにも」

「え??」


 ツバキさんは大丈夫だ。でも、イブキさんの方はヤバい。
 何せオレ、あんなえげつない脅し方したし。キサのためとはいえ、あんなことしなければよかったって。今めちゃくちゃ後悔してるから。


「それじゃあ、椿ちゃんには今から連絡を入れておくわね」

「え。でも、こんな夜遅くに……」

「大丈夫。葵ちゃんのこともあるから、どっちみち早めにと思ってたんだ。流石に、明日になってからじゃ不味いだろうし」

「……すみません。あの、電話あとで少し替わってもらえますか?」

「うん。大丈夫よ」


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