すべてはあの花のために➓
12.月を望む者
藤香
「ん? ……誰ねえ。こんなに朝早うに……」
孫はもう学校に行ったし、友達が来ることはないんやろうけど。
そう思いながら玄関の戸を開けたら、よう知った男の子がおった。
「どしたんねヒナタ。あんた学校は?」
「今日は病欠」
「どこがや。ピンピンしとるやないね」
「てことにしてる、ズル休みという名の世界を救う運動中」
「は? チカゼは学校行ったで? 早よあんたも行き」
「えー嫌だよ。オレ今日はフジばあと世界征服……じゃなかった、世界を救う話をしたいんだから」
「(……世界征服言う方がよう似おうとるわ)」
にしても、なんで私と話なんか。
「あーあ。フジばあの好きな桜堂の桜餅買ってきたのになー。しょうがないからハルナにあげようかなー」
「それ食べたいとか言えんやつやで。供えたりいね。……なんやようわからんけど、話あるんやろ? あがり。茶点てたるわ」
「大丈夫。ハルナにはちゃんと別で供えるから。これはちゃんとフジばあにだよ。美味しいお茶よろしくね」
「へえへえ。どこおるんね。そこで話しよか」
「あ。じゃあトウヤさんとスミレさんのとこにいる」
「せやな。久し振りやろ? しっかり話したり」
「そうするね」
それから、久し振りに上がる家をさっさと歩いてヒナタは行った。
「……一体何やって言うんや?」
ちょっと多めに、お茶持ってってやろうかね。世界征服……ちゃうか。世界を救う運動? に協力せなあかんみたいやしなあ。
未だに子どもっぽいところあるんやな、と小さく笑って、お茶を点てる準備をした。
「……お久し振りです。トウヤさん。スミレさん」
二人の前に来て、そっと手を合わせる。来るのはいつ振りだろうか。
中学は、丸々来てない。それぐらい久し振りだ。お世話になったのにね。まあ次来られるか、って感じですけどね。
「実は、フジばあにもなんだけど、二人にも話があってオレは来たんだよ」
二人には話そう。二人はちゃんと、聞くべきだから。
「……恨んでる? 恨んでる、よね。多分……」
でもね、ちゃんと知って欲しいんだ。二人には。
「二人のことを、あんな目に遭わせてしまった子はね、本当はそんなことしたくなかったんだよ」
そうすることしか、彼女にはできなかった。大切な人たちを、守るために。
「でもね? 二人はちゃんと守られてたんだよ。……追い詰められたよね。苦しかったよね。……っ、チカに。会いたかったよね」
守ってあげられなくて、悔しがってる人もいるんだ。きっと、何もかも片がついたら、その人も来るから。ちゃんと、謝りに来るからね。
「あと、そうすることしかできなかった子も、きっと来るからね。またその子から直接話をしに来てもらおうと思うけど……」
今日はオレから。フジばあが来るまでの少しの間。二人が巻き込まれてしまった、悲しい昔話をしてあげるね。