結婚なんて、ゼッタイお断り!







でも、違ったみたい。

やっぱり誰かに心を開くなんてこと、しなければよかった。

こんな気持ちになるくらいなら、ずっと一人でいるほうがよかった。



ポロポロとこぼれ落ちてくる涙を、ゴシゴシと雑に拭き取った。

すると、稲瀬はそんな私の手を止めて、代わりにそっと人差し指で涙を拭ってくれる。




「な、何を……」

「──じゃあさ、美桜ちゃん。俺と結婚しなよ」

「は?」

「そうすれば、伊織達は誰も選ばれずに若頭になんてなれないんだからさ」

「……でもっ」

「美桜ちゃんのことを傷つけた奴らだ。仕返ししてやろうよ」




稲瀬はそのまま私の腕を掴んで、グッと自分のほうへ引き寄せた。

伊織や大和達とは違った、稲瀬のにおいが鼻をとおる。




「俺のところにおいで」

「なんで私が、稲瀬のところに……っ」

「俺は少なくとも、君にそんな顔はさせないよ」

「……」

「悲しませたりもしないし、泣かせたりなんてもってのほかだね」

「ど、どうだかねっ」

「言っとくけど、俺。好きなった子にはすっごい優しくて、一途だよ」








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