結婚なんて、ゼッタイお断り!
(伊織SIDE)
【伊織SIDE】
俺はきっと、あの日、君がはじめて俺に触れてくれた日のことを──……一生忘れない。
この世に一人取り残されてしまったのは、六歳の誕生日の日だった。
その日は土砂降りの雨が降っていて、地響きするほどの雷が空を光らせていた。
そんな足元の悪い日に、俺はどうしても欲しかったおもちゃを両親にねだっていた。
『明日じゃダメ?』と聞く母に、『今日じゃないとダメ!』とわがままを言って。
優しい両親は俺の願いを叶えるために、車を走らせた。
そしてその帰り道、両親は事故に遭って──……帰らぬ人となった。
いくら待っても帰ってこない父と母のことが心配になって、玄関の外で待っていた六歳になりたての俺。
けれど、一時間経っても、二時間経っても二人の姿は見えないまま。
そして空が真っ暗になったときにやって来たのは、顔も知らない大人達だった。
「君が伊織くんかな?」
「君のパパとママは、事故で亡くなってしまったんだ」
「病院にいるから、早く最後のあいさつに行こう」