呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「奪われたまま、終われませんわ……!」

 蹴りつける物がないならば、拳を握り締めて床を殴ればいい。
 手が痛むのも厭わずに、何度も悔しさや怒りを発散させていれば――。

『亡霊の愛し子に憎悪を抱く、不届き者よ……』

 どこからともなく、恐ろしい声が聞こえてきた。

「だ、誰ですの……?」
『わたしは、闇の化身。コクマ』

 恐る恐る問いかけたアメリの声に応え――闇を纏う小さな影の正体は、一匹の黒猫だった。

『すべてを引き換えにしても、あの子を屠りたいと願うのならば……。わたしの手を、取りなさい……』

 赤い瞳の動物は彼女へ静かに語りかけると、右前脚をアメリに差し出す。
 その姿を呆然と見つめた彼女は、先程まで怒り狂っていたのが嘘のように――肉球に血濡れた指先を伸ばした。

「何を犠牲にしても、構いませんわ……!」
『そう……。それでは、始めましょう……。あの子を、亡霊の女王として覚醒させるために――引きずり落とせ。深淵まで……』

 悪魔との契約を果たしたアメリは、黒猫の隠された目的に気づくことなく――コクマの傀儡として、生きる道を選んだ。
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