超人気美男子の彼女になった平凡女は平和な交際を求めて苦悩する

「おはよう、テラス」

戸を開けると、テラスが挨拶をする前に、アンセムが笑顔で出迎えてくれた。
さらさらとした少し長めの金髪が揺れる。
グレーの長袖Ｔシャツとジーンズというラフな格好だが、スタイルが良いので洗練して見える。

「おはよう。アンセム」

テラスも笑顔で挨拶を返す。

「今日は新書を移動する仕事だそうだよ。
Ｓ１からＳ５までで、それぞれの本の場所はこれにカイさんが示してくれているから」

アンセムは紙をテラスに見せた。
ふんふんと頷きながら内容を確認するテラス。

「まずは、Ｓ１棚の本をカートに乗せて、新書を並べようかと思う」

「わかった。手分けした方がいいかな？」

「そうだね。新書は分担しよう。元あった本を移動させるのは、一緒にやった方が早そうだ」

「うん。オッケー。じゃぁ、早速始めようよ」

「ああ」

テラスとアンセムが知り合ってから、カイは何度も２人をを指名して仕事を頼んでいるので、やりとりが非常にスムーズである。
カートに本を載せて２人は部屋を出ところ…。

「いい加減しつけー！！」

「もう！いいじゃないの～！」

イラついた怒鳴り声と、甘ったい声が聞こえてきた。

「あ、シンが来た」

そう言って、テラスは今さっき出た部屋に引っ込もうとする。

「おい！テラス！逃げるな！助けろ！」

それを見逃さない怒鳴り声の主、シン。
彼は１８歳。今年の入寮生である。
生物学を専攻、記録的な早さで習得し、テラスと同じ薬学に進んだ。
少し伸び過ぎた明るい茶色の髪を無造作に１つに結んでいる。
あまり身なりに気を使うタイプではないが、彼独特の野生的な雰囲気が、独特な魅力を醸し出している。

テラスは構わず部屋に戻り戸を閉めた。
アンセムはシンが嫌いなので、テラスに続いて部屋に戻る。

「懲りない奴らだな」

カイは一瞥だけして、自分の仕事を続けた。