超人気美男子の彼女になった平凡女は平和な交際を求めて苦悩する
「なによあれ。テラス、大丈夫?」

アイリがハンカチを差し出す。
テラスは自分のタオルで濡れた所を拭いていた。
でも、かかったのはどうやらジュースのようで、ベタベタしてしまう。

「ありがと。でもシャワーしないとダメっぽい」

「もう、なんなのかしら!」

憤慨するアイリ。
しかし、はっとしてテラスに囁くように聞く。

「もしかして、テラスとアンセムが付き合っていること、バレた?」

「どうかなぁ…」

一応かなり気をつけてはいるが、中央施設では2人で行動することも多い。
誰かが見ていて、付き合っているとバレても不思議はない状況だ。

「とりあえず、食べたら部屋に帰るね」

「うん。なんか心配。私も一緒に行くわ」

「ありがと、アイリ」

食堂から自室への道中、ときどきヒソヒソと囁かれているように感じた。
部屋についてドアを開けると、ドアの隙間に入っていた紙に気付いた。
『身の程をわきまえろ』と書かれていた。

「これは…バレた?」

紙を眺めて沈鬱になるテラス。

「う~ん、どうかしら。
気付かれたかもしれないし、まだ付き合ってるとは思われていないかもしれないし、何とも言えないわねー」

「はぁ…。どっちにしても、やられることは変わらないんだろうけど」

2人は部屋へ入り、テラスは鍵を閉めた。

「ちょっとシャワーしてくる」

「うん」

テラスがシャワー室へ行くのを見届けてから、アイリは電話の受話器をとった。
かける先はアンセムの部屋だ。
しかし、出ない。部屋にいないのだろうか。

「さて、どうするべきか…」

受話器を戻して考え込むアイリ。
アンセムのファンは多いが、実際に陰湿な手段を取ってくる女の子は少数派だ。
しかし、この少数派が極めて粘着質なのである。
考え込んでいるうちに、テラスがシャワーを終えて戻ってきた。
< 89 / 346 >

この作品をシェア

pagetop