きみはあたしのライラック
2
「すず。これは何?」

「これはね、マリトッツォ。
少し前に流行ってたんだよ。」

「すごい。クリームがいっぱいだ。
小さなケーキみたいだね。」

「そうだね。」

「っ!これ、おいしいっ」

「良かった。」



手にしたマリトッツォを物珍しげに眺めて
ぱくりと口に入れた後、ひもろぎさんの表情は
一気にきらきらと輝く。


同じように、あたしも
生クリームをたっぷり入れた、丸いフォルムの
可愛らしいそのお菓子を口にいれる。


……うん。
生地も、クリームの味も固さもいい感じ。


夢の中では
失敗なんて概念はないのかもしれないけど…


納得のいく出来に、満足しながら
目の前で幸せそうにお菓子を食べている
ひもろぎさんに視線を向ける。



……ひもろぎさんは、本当に美味しそうに食べてくれるなぁ…



作りがいがあると言うもの。


全身で『美味しい』と伝えてくれる
ひもろぎさんに、あたしの心は満たされる。



「……ひもろぎさんって…」

「うん?」

「夢の神様じゃないって、前に言ってたけど…」

「うん。」

「じゃあ、ひもろぎさんは一体何者なの?」



ずっと気になっていた疑問をぶつければ
ひもろぎさんは、ちゃぶ台に置いていた
違う種類のマリトッツォに、手を伸ばしながら、答えてくれた。
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