君の心は奪えない
「依頼者から、お礼をいただいてるよ。ケーキ、食べる?」
「食べる!!」
このぱっと見喫茶店のオーナー、春義君はカウンターの奥にある冷蔵庫からケーキ屋さんの箱を取り出した。
箱に書かれているのは、あたしが好きなケーキ屋さんのロゴだ。
「そこのケーキ、あたし大好き」
「依頼があったときに伝えておいたからね。『フローラは3丁目のケーキ屋のいちごタルトが好きなんです』って」
「師匠、大好き!!」
春義君は、大学院生のお兄さん。
背がすらっと高くて、黒髪の、真面目そうなイケメンさんだ。
彼は、このお店のオーナーの孫。
そして、あたしの師匠なの。
この喫茶店のような場所は、本来の姿を知らない人にはコーヒーやケーキを提供する普通の喫茶店。
本来の姿は……。
依頼を受けて、宝石や美術品を“取り戻す”ことを目的にした怪盗業をしている事務所だ。