『ゴールデンゴール』
10

そもそもどうしてそのような状況になったかというと、発端は彼女、
小泉淳子(こいずみあつこ)の来訪からだった。


あの日……俺は土砂降りの雨の中スーツを濡らしたまま帰宅し、身体をタオルで
拭き、着替えを済ませたところで小泉淳子の訪問を受けたのだった。

妻の圭子は義母が体調を崩していて、介護のため実家へ帰っており自宅には
いなかった。

彼女の申し出というのは、申し訳ないが電球の玉を替えてほしい、という
ものだった。

そもそもこんな時間に非常識だとは思いつつ、妻の学生時代の先輩という
ことで断るわけにもいかず、疲れた身体で彼女と一緒に部屋へ向かった。

電球の取り替え自体はすぐに終わった。


それで帰ろうとすると

『お食事もまだのところをお願いごとをしてしまい、申し訳ありません。
いただきもののトロの刺身があるので召し上がっていってください』
と提案を受けた。

一度は辞したのだが、多過ぎて困っていると言われ、それならと呼ばれた。


そして食後、お礼にとマッサージを勧められた。

予想もしていなかった申し出に一瞬躊躇したものの、ただの社交辞令とも思えない
ような積極的な申し出だったため、拒否もできずなし崩し的にマッサージを受ける
ことになった。

彼女は妻の学生時代の部活の先輩で、昨年7階に住む我が家の同じマンションの 
2階に引っ越しして来て以来の付き合いになる。

付き合いといっても、自分は妻繋がりで面識があるだけ。
たまに合うと、挨拶を交わす程度の関係だったのだ。

俺は勧められるままアロママッサージサロンとして使われている部屋の一室で
施術台に乗り、促されるままうつぶせ寝になった。


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