公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜


「ルーカス、落ち着いて、お願い…」

「落ち着いてるよ」

「嘘をついたのはごめんなさい、だけど、ルーカス。こんな事は間違ってる、ねぇ──っ!」


 言葉を遮るかのように、ルーカスが私を強く抱きしめる。そして、懇願するように自分の額を私の額に押しつけてくる。


「愛してるんだ、エルーシア。──君もそうだろう?」

「わた、しは…」


 ルーカスの事は好意的に思っている。家族愛や友愛ではなく、恋愛感情として彼に惹かれている。だけど、彼のこの暴力的な想いに、愛には応えられない。彼が私に与えてくれる愛と同じものを、私はきっと返すことができない。


 だから───わたしは、私は…


「……ルーカスの想いには応えられない」


 その瞬間、私と彼の唇が重なった。拒絶の意思をこめて彼の胸を叩けば、舌先に鋭い痛みを感じ、口内に血の味が広がった。


「……っ、ルーカス、」

「この関係になって、エルーシアも前より俺のこと意識してくれたと思ってたんだけど…」


「気のせいだったか」なんて笑うルーカスの言葉に思わず顔が赤くなるのがわかった。
 図星だった。優しいルーカスの態度に惹かれて、ドキドキしていた。だけど、こんなことをされて素直にそれを認めたくはなかった。


「………ルーカスなんて、大っ嫌い」

 そう言って目の前のルーカスを睨めば、彼の顔から笑顔が消えた。


「じゃあ、愛してるっていうまで離さない」


 その瞬間、ルーカスの瞳が妖しく光る。
 まずいと思った時にはすでに遅く、視界が暗くなり、意識が遠のいていく。


 完全に意識を手放す瞬間、ルーカスが何かを言っていた気がしたが、私の耳には届かなかった。



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