君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜
廊下で待っている看護師がドアをノックする音が聞こえるまで、如月は医者の立場を忘れてただ千紗しか見えなくなった。 

「…如月先生…そろそろいいですか?」
遠慮がちに再度ノックの音がする。
仕方なしに如月がフーッと深い息を吐き、自分を無理矢理立て直す。

「…あとでちゃんと話そう。とりあえず…新しい角膜がちゃんと機能しているか検査させてくれ。」
呟くようにそう言って、千紗の頬から手を離す。

「…すいません。お待たせしました、検査を始めます。」
今の今まですがるような目で千紗を見つめていた男とは思えないほど、何事もなかったように淡々と仕事をこなし始める。

如月が藤堂涼であり、あの頃からずっと好きだったと言う…。
その言葉をまだ上手く飲み込めないまま、それでも千紗も気持ちを立て直し、涙を拭って涼の言う通りに検査を受け入れる。

「これ、何本か分かりますか?」
如月が千紗の目の前に指を3本差し出す。

「3本です。」
長くて綺麗な指だなとずっと見つめてしまう。
「これは?」
何度となく質問が繰り返され、目の動きから採光度合いなど、一つ一つを丁寧に確認していった。

1時間近くまでかかり、最後は視力検査で全ての検査が終わった。その頃には千紗の心も落ち着きを取り戻した。だけど戸惑いや恥ずかしさで、なかなか如月の顔を見る事が出来ずにいた。

「これで明日退院になりますが、2ヶ月間はは週1回の受診を忘れずにお願いします。後は…お仕事ですが、無理のない範囲でお願いします。目を酷使する仕事は避けて下さい。」

「はい。」
と千紗は返事をして、ここで始めて如月と目線を合わせる。

お互いがお互いを見つめ数秒…じっと金縛りにかかったかのように動けなくなる。
千紗は鼓動が早くなるのを感じながら、何故だか逸らしたら負けのような気がして…目を離せなくなる。

「あの…先生?」
沈黙を破ったのは他でもない事情を知らない看護師永井で、困惑しながら涼を見ていた。

明らかに2人の纏う空気が患者と医者とは違う事は感じていた。

時には冷酷なぐらい患者に対しても淡々としている如月は、医者としてもう少し寄り添うくらいしたらどうかと思うほどだった。

かと思えば実は誰よりも丁寧に診察をして、患者の病気には真摯に向き合う姿もあった。
ただ、ここまで患者と距離が近い如月は見たことがない。

噂通り2人は恋人同士なのだろうか…?
全くと言っていい程プライベートを語らない如月だから、その容姿に立ち振る舞いに、密かに思いを寄せる女子もいる。永井自身もその1人だった。

ソワソワする気持ちをひた隠し、永井はもう一度呼びかける。

「如月先生、次の診察が押してますから急がないと…。」
遠慮気味にそう伝えると、やっと涼の視線が動く。

「分かりました…。では、また後で。」
千紗に軽く会釈をして、看護師永井と共に席を立つ。

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