君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜
目が見え無くなるかもしれない…

漠然と恐怖に襲われたのは今朝。
いつものようになんら変わらない朝だった。

歯を磨き、肩下まで伸びた髪を梳かし、ひとまとめにしてポニーテールを作る。

ふと鏡を見ると、ぼんやりとしか見えない景色に目が眩む。メガネを忘れていたんだと慌ててかけて再度鏡を見つめる…。

それでも焦点が定まってないような、ぼんやりとした、まるでスモークがかかったような視界で、思わず鏡を拭いてみる。

こんなに視力が落ちてたんだ…。

千紗の脳裏に、昨日聞いた眼科医の言葉がふと蘇る。

『失明するかもしれません』

本当に…もしかすると…見えなくなってしまうかも…そこで初めて現実を見る。

千紗は洗面所の冷たい床に崩れ落ち、突然真っ暗などん底に突き落とされたような感覚を覚える。

しばらくその場にうずくまったまま立ち上がれないでいた。

なかなか戻って来ない千紗を心配して、母が洗面所に駆け付ける。
「千紗…辛かったら学校休んでもいいのよ…。」

座り込んだ千紗を見て、弱々しく泣き崩れる母。それでも千紗自身は涙も流す事も出来ず。ただ、身体中に絶望感だけが流れ込んでいた。

それでもしばらくして立ち上がり、何事もなかったかのように学校へ行く。

「…そんなに頑張らなくても、1週間くらい休んでも平気よ…せめて、車で送ろうか…?」
ひとしきり泣いた母は真っ赤な目でそう言って気遣ってくれるが、それすらも、今の千紗を何だかもっと惨めな気持ちにさせた。

「大丈夫…行ってきます。」

学校に着き、そのまま淡々と授業をこなし、変わりない日常を過ごしてみるも、笑い合う同級生達のたわいない会話がやけに遠くに聞こえた。

自分だけまるで違う世界にいるような、空虚な時間が過ぎて行った。
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