君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

如月 涼の場合(涼side)

(涼side)
久しぶりに心が踊る感覚を味わっていた。

決心して日本に帰国して3ヶ月。

彼女の在処を探し、辿り着いた彼女の職場を見つけそして転職をした。

まさか、あの5年前に通い詰めた病院に彼女がいるとは思いもしなかったから、ここに辿り着くまで1ヶ月は有にかかった。

まるでこれじゃストカーだな…と、自分に苦笑いしながら、帰国後直ぐに彼女の実家を訪ねたがそこは既に他人の手に渡っていた。

もう5年の月日が経っていた事に今更ながらハッとした。

その5年の間に俺自身は苗字が変わった。

長い間別居していた両親がついに離婚して、母親の姓である如月を名乗る事になった。

既に成人を過ぎていたから今更姓を変えなくてもいいと母には言われたが、藤堂の名はいつだってどこにいたって重くのしかかる今までだったから。

初めて何者でも無い自分に生まれ変われた気がして気持ちはスッキリとした。

カルフォルニアでの日々はひたすら研修医としてがむしゃらに働いた。

日本人は勤勉過ぎると揶揄われる事も多々あったが、恋愛やひと恋沙汰にもうつつを抜かず、我ながら何かに取り憑かれたようなそんな5年間だった。

手に入れたいのはただ一つ。角膜移植の技術だけだった。その道の名医の下に就き誰よりも貪欲に学び続けた。
そしてやっと一人前の称号を経て、日本に帰り目的を果たす為彼女を探す。
独りよがりな身勝手な、そう、これはただの要らぬお節介に過ぎない。

揺れる電車の中、その彼女の横に座り、彼女の言葉に思わずズキンと心が痛んだ。

分かっている。
俺の積み重ねてきた日々は全て、ただの要らぬお節介だ。自己満足、自分勝手な押し付けでしか無い。

だけど、この手を離せないのは何故なのか…意固地になってるだけか?
ここに来て自分自身でも自分の信念が分からなくなっていた。

人道支援の一環だというどさくさに紛れ、彼女の手を取り病院に向かう。優越感にも似た不思議な感覚に心が踊る。

彼女の居場所を突き止め、ただ見つめ続ける日々を経てようやくここまで近付けた。
なのにいざとなると怖気付き、何一つ口に出せないまま…。自分が何者なのかも伝えられていない。

もしかしたら声で気付かれるのではないかと、淡い期待も抱いていたが、彼女の中に既に藤堂涼は消されているのか、全く持っていまだに気付いた感じは無い。

それをいい事に、このまま別の人物として1から知り合っていけたらそれもいいなと思ってしまう自分がいる。
< 48 / 166 >

この作品をシェア

pagetop