君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜
気付けば、遮断機の外側に投げ出されていた。
自分に何が起きたか分からず、ただ、降りしきる雨に打たれ呆然と道端に座り込む。

「大丈夫か⁉︎」
黒い影が近付いて来て、千紗を抱き上げるかの様に持ち上げて立たせてくれる。

そして、そこら辺に散らばってしまったであろう荷物を、その声の主は周囲の人達を巻き込んで掻き集めてくれている。

千紗はといえば、夜、暗くなった世界で1人何も見えず…
線路を行き来する車の灯りだけが何とか認識出来るくらいだった。
何が起こったのか知りたくもなく、ただ先の見えない未来を見つめ怯え佇むしかなかった。

千紗を線路から救った声の主は、力強い重低音の良い声を響かせ、一緒に集めてくれたであろう人々にありがとうと礼を言い、荷物を受け取っているようだ。

「荷物これだけ?他に無い?」
近付いて来たその声の方に体を向けて、

「…ありがとう、ございました。」
と、千紗は弱々しい声でお礼を言って、手を伸ばしてみる。

「…もしかして、見えてない?」
差し出した手があさっての方向だったのか、彼は何かを察したようだ。

「…すいません。ご迷惑をお掛けしました。もう大丈夫ですので…。」
千紗はこれ以上関わってほしく無いと拒絶して、両手を差し出し荷物を手探りで探す。

それなのに…グイッと力強い手に引っ張られて、
「とりあえず、こっちに…。」
と、彼は素早く自分が着ていた上着を抜いで、千紗の頭に被せ、濡れてしまった腕を掴みどこかへと歩き出そうとするから、慌ててその手を振り解き彼から逃れようと試みる。

「あ、あの…大丈夫です。1人で帰れますから…本当に、これ以上ご迷惑は…」
慌てて千紗がそう言うと、

「あっ…ごめんつい、その…弱ってる君をどうこうする気は全く無く…ただ、膝から血が出てるし、服がびしょ濡れで下着が透けてて…とりあえずそのまま帰す訳には行かない。」
怯える千紗に、彼は慌てて言い訳をする。

「俺は医大生で、藤堂涼といいます。
…医者になろうとしている奴が、弱ってる君を見捨てる訳には行かなので、せめて傷の手当てをさせて欲しい。」

淡々とそう訴えてくる藤堂も、降りしきる雨でびしょ濡れだった。

「私の事は、気にしないで下さい…どうせ価値のない人間ですから…その、だから…。」
それでも千紗は居た堪れない気持ちが溢れ、この場から逃げ出したくて、掴まれた腕を振り解こうと試みる。

さっきまで死にたいと思っていた人間に何の価値がある?自分の人生を悲観して、これ以上生きる事は耐えらない…

「価値の無い人間なんていない!
君がいなくなったら悲しむ人は沢山いる。生きる事から逃げるな。生きたくたって生きられない人だっているんだ…。」

藤堂はそんな千紗の気持ちをどうにかして救いたいと、すがるような気持ちで彼女に乞うていた。

…藤堂はかつて助けられなかった親友を千紗に重ねて見ていた。
幼少期からいつも一緒にいた親友だった。中学に上がり疎遠になったが、心のどこかで繋がっていて、たまにあいつはどうしているだろう、とふと思い出してはたまに連絡をとっていた。

あれは…
高校に上がり立ての頃、その親友に気まぐれにメッセージを送ってみたら、既読が付かず心が騒ついた。嫌な予感がして彼の家に行くと、少し前から入院していると告げられ衝撃を受けた。病名は白血病だった…。

しかも、入院した病院は父が営む藤堂病院だった。父は知りながら、受験勉強に勤んでいた涼の妨げになってはいけないと、何も伝えてはくれなかったのだ。

駆けつけた時には既に会話も難しいほどの病状だった…。
数日後、亡くなった親友に誓う。医者になって病気で苦しむ多くの命を救ってみせると…。

そんな涼だから、どうしても目の前にいる儚い命を見捨てる訳にはいかなかったのだ。
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