君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜
エレベーターは既に1階に到着していて、千紗と共に乗り込む。これほど緊張した事はかつてあっただろうかと思うほど手に汗を握る。

「ごめん。一旦離していいか?変な汗かいてきた。」
俺がそう言うと、

「私もですから気にしないで。」
と彼女が言う。その言葉に少し救われて、フッと笑い合う。

「よし。出来るだけ嘘偽り無く行くからな。俺の言葉を否定するなよ。」
そう告げると同時にエレベーターが到着を告げる。

「左でよかった?」
「はい。向かって左の角部屋です。」
ここまでは、際どい段差も無く順調に彼女を誘導する事が出来た。
3メートル程の廊下を視線は彼女の足元に向け、少しのつまずきも見逃さないと神経を尖らせる。

不意にガチャッと突き当たりのドアが開き、
「…千紗!」
と彼女を呼ぶ声がして2人足を止める。
「君のお母さんと、お父さん…と妹さん?かな。」
目に映る全てを見えない彼女の代わりに、言葉にして伝える。

「理紗もいたんだ…。」
と彼女が呟くから、初めて彼女の妹の名を知る。そういえば、5年前も妹の話しはあまり聞かなかった。若干の不安を胸にまた一歩踏み出す。

「お姉ちゃん、お帰りなさい!」
見えない彼女に向かって飛びついて来る妹は、高校生くらいか?危なく後ろに倒れそうになる千紗の背中を咄嗟に支える。

「理紗…いきなりびっくりするよ。久しぶり、元気そうでなにより。」
姉の顔を垣間見せ、彼女が優しく妹を抱きしめる。

「えっ!このイケメン誰!?」
俺と目があった途端、不躾な感じに言葉を発する彼女の妹は、彼女とはまた違う性格なのだと瞬時に察する。

「初めまして、如月です。」
慌てて駆け付けた両親に向け、軽く頭を下げて自己紹介する。

「…初めまして。千紗の父と母です…あと、妹の…」

「理紗です!お兄さんイケメンですね!!なんでなんで?姉の付き添いしてるんですか?」
興味津々の目を向けられて、さすがの俺も一瞬たじろぐ。

「理紗、不躾に失礼よ。すいません…。千紗がお世話なっております。とりあえず中に入って下さい。」

慌てて妹を千紗から引き剥がした母親が俺に笑いかけて来る。

「ありがとうございます。少しだけお邪魔させて頂きます。」
俺はそっと千紗の手を離し、彼女の家族の後に続く。
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