エリート外科医の蕩ける治療
13.俺は杏子に溺れてる side一真
唐揚げ弁当を買いに杏子の店を訪れると、杏子がぱっと顔を綻ばせた。

「一真さん、一真さん!」

やたらとテンションが高い。もしかして俺を待っていたのか、なんて考えるのは自意識過剰だろうか。

「唐揚げ弁当――」

「一真さん、デートがしたいです」

「うん? デート?」

「デート!」

確かに、よく考えてみれば杏子とどこかに出かけたことはない。杏子が家に来て夕飯を作ってくれることは何度かあるが。

「そうだな。出かけるか」

「本当ですか? やったー!」

「どこか行きたいところがあるのか?」

「ありますよ。ここ。ここ行きましょう」

そう言って嬉しそうにチラシを差し出す。そこにはでかでかと【美味いもの物産展】と書いてあった。実に杏子らしいチョイスだ。

「いいよ。じゃあ今度の休みに」

「朝早くからお願いします」

「朝早く?」

「朝早くです!」

ニコニコと嬉しそうな杏子を前にすると、首を縦に振るしかなくなる。ご機嫌な杏子は物産展のチラシを見ながら、何だかんだと説明をしてくれる。よっぽど行きたかったのだろう。杏子の話をずっと聞いていたいのは山々なのだが……。

「杏子、ごめんけど唐揚げ弁当。俺、一応仕事中」

「あっ! ごめんなさい。すぐ用意します」

我に返った杏子は急いで唐揚げ弁当を包んでくれた。その袋の中に物産展のチラシを一枚入れ込んでいたのを俺は見逃さなかった。これは予習しておけということだろうか。

「杏子」

「はい?」

「楽しみだな」

「うん、とっても!」

マスクをしていてもわかる、杏子の華やいだ笑顔。そんな杏子に癒されて、午後からの仕事も頑張れそうだ。なんて単純すぎるのだろう。

病院に戻って唐揚げ弁当を食べながら物産展のチラシを流し見する。ところどころ赤ペンで大きく丸がついている。杏子が買いたいものなのかなと思いつつ、その丸の多さに笑いが込み上げる。どれだけ買う気だろうか。だけど俺もデートが楽しみだ。
< 87 / 113 >

この作品をシェア

pagetop