【完結保証】シェアルームには私を振ったアイツがいる

間接キス②

 さきほどまで少しだけ涙ぐみそうになっていたのに、今はもうそれどころではない。

 清水くんの手には私が使っていたグラスがある。当然ながら、目の前には清水くんが使っていたグラスが。しかもどうしたことだろう、ストローという、絶対に口をつけるのが不可避なやつだ。

 ……黙っていようか。

 でも、私はこれを飲まなければならないのでは。
 それはそれで、ちょっとハードルが高すぎやしませんか。

 気づいていないらしく涼しい顔をしている清水くんだが、対照的にたぶん私は真っ赤だ。絶対に耳まで真っ赤になっているハズだ。

 私も知らなければ、気づかなければ良かったのに。

 ……もうこうなると無理だ、私が手をつける前に交換してもらおう。
 決意すると、私はようやく口を開いた。

「清水くん、それ……私のグラス、です」

 なんとか、これで察して欲しい。

「……あっ」

 そこで、私のいわんとすることを認識したらしく、清水くんはかあっと耳まで赤くなった。 

「ごめん! いや、そんなつもりじゃ」

 ただ、純粋に交換してもらおうと思っただけなのに、墓穴を掘ったらしい。

 いや、違う。

 そのまま手をつけなかったら――単純に黙ってたら良かったのかもしれない。コミュ(りょく)ゼロの私は、そのことを考えつきもしなかった。

「ごめん、俺の飲んでいいから」
「えっ!? 違ッ、そういうことじゃなくて……!」
「あっ、でもそれじゃあ、俺のが……あれっ?」

 待って待って、なんだか間接キスを自らアピールしたみたいになっている!? 

 どうしたものか、私たちは二人ともあわあわしながら混乱している。
この収拾をつけてくれる人など、ここにはいない。

「も、もういいです! ふ、二つとも飲んでくださいッ」

 パニックになったまま私は思わず清水くんの部屋を飛び出し、恥ずかしさで爆発せんばかりの心臓を抱えながら、そのまま助けを求めるべく――ユキちゃんの部屋へと逃亡した。
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