ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う
「ねえ、わたしが修道院に入ると言ったらどうする?」
執事はにこりと笑った。
「もちろん、お供いたします」
◇◆◇
と、いうわけで、わたしは北の修道院に来た。
夏だというのに肌寒い。
「本当にここまで来るとは……」
執事が苦笑を浮かべる。
「王都にいたら、王太子妃の補佐をさせられるでしょう? あんなお嬢ちゃんの補佐はいや」
わたしはあの日、屋敷に帰って早々、お父様に「わたしを北の修道院に追放してください!」とお願いした。
家族は驚きに目を丸め、わたしの話を聞いてくれたし、怒ってもくれたわ。
お父様は「殿下に抗議に行く!」と言ってくれたけど、わたしは断った。
なにせ、わたしは面倒なことが大嫌いだ。
なぜ、あの王太子のためにそこまでしなくてはいけないのか。そもそもあの、ふわふわ頭の令嬢とスカスカ頭の王太子を取り合うなど、言語道断。そんなことしたら、わたしの黒歴史になってしまう。
それなら、利用されないくらい遠い場所に行くのがいいと思ったのだ。
「自ら北の修道院に追放される話は、初めて聞きました」
執事が苦笑を浮かべて言う。
「これが最善策よ。逃げるが勝ちって言うでしょう?」
必要のない戦いはしたくない。
もちろん、社交場であのふわふわ頭の令嬢を虐めるなんて面倒なこともしない。
その時間はゴロゴロしたいに決まっている。
策略を巡らせ誰かと戦うなどという面倒なことはしたくない。