ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う

 わたしだって、ただ逃げるばかりじゃないわ。
 わたしを追い出したこと、わたしの十年を無駄にしたことを後悔させてやるんだから。
 執事の入れた香りのいい紅茶を楽しみながら、さらさらと手紙を十通書いた。
 慌てて荷造りをして屋敷を飛び出してきたから、最近は働き詰めだわ。
 わたしは大きなあくびを一つした。

「今日はもう休まれては?」
「そうしようかしら?」

 手紙を書き終えたわたしは、着替えを済ませベッドへと転がる。
 やっぱりベッドは最高!
 わたしを包み込んでくれる布団がなによりの癒しだわ。
 すると、遠くから遠吠えが聞こえて来た。
 犬? 狼?

「ウォーーーン」
「狼がいるの?」
「この辺りは自然ばかりですから」
「一匹の声しか聞こえないわ。迷子かしら?」

 狼は群れで行動するものだと本で読んだことがある。
 一匹吠えれば、連なって聞こえるものではないか。
 まるで、一人寂しく泣いているように聞こえた。

「もしかしたら……」

 執事が言葉を濁す。

「なに?」
「いえ、昔噂を聞いたことがありまして。狼の血を強く受け継いだ王子が北の塔に幽閉されていると」
「そういえば……。そんな話、子どものころに聞いたわ」
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