【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
(まさか、姉さんは本気で殿下を慕っているのか?)

 演技であると思いたかった。
 仲のいい夫婦の振りをしているだけだと信じたかった。

 けれど、エリスにアレクシスのことを尋ねれば尋ねるほど、エリスの本気が伝わってくる。
 それに、アレクシスがエリスを見つめる瞳に秘めた熱情は間違いなく本物で、シオンは悟らざるをえなかった。

 ――自分こそが邪魔者なのだ、と。
 二人はとっくに相思相愛で、弟の自分が出る幕はないのだと。

 けれどだからといって「はいそうですか」と退散することはできなかった。

 たった一人の大切な姉を奪っていったアレクシスに、苦汁を舐めさせてやりたい。
 どんな小さなことでもいい。復讐してやらねば気が済まない、と。

(こうなったら、居座れるだけ居座ってやる。――ああ、そうだ。どうせなら、ここから学院に通えばいいじゃないか。そうすれば、僕は毎日姉さんに会える)

 それが子供っぽい考えであるとはわかっていた。
 エリスのことを少しも考えていない、自分本位の我が儘だということを、頭ではちゃんと理解していた。

 それでも、どうしようもなく許せなかったのだ。
 エリスの心を攫っていった、アレクシスのことが。

(姉さんは、僕の姉さんなんだ。簡単には渡さない)

 シオンは決意した。
 このまま大人しくここを離れて堪るかと――それは、意地のようなものだった。

 だがエリスは、そんなシオンの(よこしま)な考えには少しも気が付かず、シオンを昔のように可愛がった。
 失った十年の歳月を取り戻すように、どこまでもシオンを子供扱いし、甘やかすのだ。

 おかげでシオンは日を追うごとに毒気を抜かれていった。

 宮に来たばかりのときは昼も夜もエリスにべったり張り付いていたのが、今ではそれも、アレクシスがいるときだけ。
 昼間は自室で、学院入学前の予習をするほどの落ち着きぶりだ。
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