【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
(オリビア様を……殿下の……二人目のお妃に……)


 暗闇に包まれた宮内を彷徨うエリスの脳裏に、何度もリフレインする、『第二側妃』という言葉。
 それが、エリスの心を苦しめる。

 正直、エリスは今まで一度だって、アレクシスに二人目の妃ができる可能性を考えたことがなかった。

 アレクシスは大の女嫌いで、その上、結婚一ヵ月のときはっきりと『妃は一人でいい』と言ったのだから。

 それを考慮すれば、例えエリスがアレクシスに『オリビアを第二側妃に』と進言しようと、アレクシスはきっと受け入れない。
 いくら皇族が一夫多妻制だとしても、アレクシスがオリビアを娶ることはないだろう。

 エリスは、リアムの言葉を聞いたとき、真っ先にそう考えた。

(なのに、どうしてこんなにモヤモヤするのかしら……)


 ――いつの間にかエリスは一階に降り、中庭に辿り着いていた。
 わずかな月の灯りに誘われて、そっと足を踏み入れる。

 すると、ひんやりとした石畳の感触が足裏に伝わり――そこでようやく、エリスは自身が裸足であることに気が付いた。

(……冷たい。……わたし、靴を履くのを忘れていたのね)

 いつもなら、裸足で歩き回ることなど絶対に有り得ない。
 昔から諸々のマナーを厳しく躾けられてきたエリスの身体には、生活一般と社交についての作法がしみついているからだ。

 そんなエリスが裸足で屋敷を歩き回る――それはつまり、今のエリスが如何(いか)冷静でないか(・・・・・・)を意味していた。
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