【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

 ランデル王国から毎週のように届くシオンからの手紙。
 そこに残る、乾いた無数の涙の跡。

 エリスは必死にシオンを(なぐさ)め、愛を(つづ)った。

「毎日あなたを思っているわ」
「シオン、わたしの(いと)しい弟」
「大好きよ。あなたはわたしの宝だわ」
「心からあなたを(あい)している」


 ――守らなければ。

 わたしがシオンを守らなければ。

 あの子を守れるのは、この世にわたししかいないのだから――。


 けれど、いつからだろうか。手紙の向こうのシオンの態度が、少しずつ変わっていったのは。


 毎週届いていた手紙の間隔が、だんだんと開いていく。
 二週間に一度、三週間に一度。そして、ひと月に一度。

 そのころには、手紙に涙の跡が残ることはなくなっていた。
 弱音や泣き言は一切書かれなくなった。

 その代わり、友人と過ごす学園生活のことや、エリスを気遣う言葉が並ぶようになった。

 けれどエリスは、その便りを素直に喜ぶことができなかった。

 姉として弟の幸福な日々を嬉しく思うと同時に、シオンにはもう自分は必要ないのだろうかと、言いようのない寂しさに襲われたのだ。


 それからというもの、エリスは益々頑なになった。

 彼女は一層、いい姉でいることに固執した。
 それだけが、シオンにとって唯一自分の存在価値であるのだと。
 
 それが、大きな過ちだとは気付かずに。
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