【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
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その後エリスは、オリビアを応接室に通すのではなく、散歩に誘った。
「お茶の支度ができるまで、外を歩きませんか? 庭園の奥に温室が……。オリビア様のお屋敷の温室には、遠く及びませんけれど」と。
もちろん、それは二人きりになる口実だった。
屋内ではどうしたって使用人たちの目があり、込み入った話をするのは難しい。
だが外ならば、声が届かないほどの距離を空けるくらい容易いことだ。
すると、オリビアはエリスの意図を汲んでくれたようで、「勿論ですわ」と快諾してくれた。
こうして二人は、数人の侍女を後ろに従えて、庭園を抜け、温室へと向かった。
十一月の半ばを迎えるこの季節、屋外庭園は流石に冷えてきたけれど、温室の中は十分すぎるほど暖かく、話をするにはちょうどいい。
そう思って選んだ場所だったが、エリスは、温室に着く頃には自身の発言を後悔し始めていた。
(……やっぱり、オリビア様の顔色、悪い気がするわ。体調がよくないんじゃないかしら)
――そう。
室内では気付かなかったが、こうして太陽の下を歩くと、オリビアの顔色の悪さがよくわかるのだ。
隣を歩くオリビアの姿は、以前と変わらず気品に溢れているし、表情こそ読めないが、受け答えにはそつがなく、エリスに対する礼儀礼節もしっかり感じられる。
だが、やはり、どう見ても顔色が悪いのである。