【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
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「リアム様の側にできるだけ長くいたかったオリビア様は、殿下を慕っている振りをすることにした。殿下相手であれば、父親も口を出しにくい。少しでも時間を稼いで、上手くいけば、側妃に納まって仮面夫婦を演じればいいと思っていたそうだよ。そうして何年か過ごしたら、離縁してもらえばいい。それくらいの気持ちでいたって」
その後のことは、以前リアムから聞いた通りの内容だった。
オリビアは、アレクシスと二人きりのときに火傷を負い、それによってリアムがアレクシスと揉めることになってしまった。
そうなって初めて、オリビアはこれまでの自分の言動を後悔したが、そのときにはもう、取り返しのつかない状況になっていた――と、シオンは語った。
「僕はさ、今の話を聞いたとき、なんて不器用な人なんだろうって思ったよ。正直、愚かだとすら思った。誰かに一言でも相談していれば、もっと違った結果になっていただろうにって。……でも同時に、少し同情したんだ」
『同情した』――そう呟いたシオンの横顔は、どこか遠くを見つめているように見える。
「僕も一歩間違えたら、オリビア様やリアム様と同じようなことをしていたかもなって。そう考えたら他人事とは思えなくて。リアム様のことは今でも許せないし、僕個人としては殿下寄りの考えだから、オリビア様を擁護はできないんだけど……。でもこれ以上、オリビア様に苦しんでほしくないと思う気持ちも本物なんだ。だから、ここに連れてきた」
「…………」
あまりの情報量の多さに、色々と処理が追い付かないエリスの隣で、一通りの話を終えたシオンは、あっけらかんと笑う。
「にしても、殿下も酷いよね。宮の出入りだけじゃなくて、手紙のやり取りも禁止って言うんだよ。読むのはいいけど、返事は書くなって。でも今朝姉さんの手紙を読んで、居ても立っても居られなくて。遠くから顔を見るくらいならいいかなって、こうして御者に変装して忍び込んだんだよ。かつらで髪色を変えて、帽子を深く被ったら誰も僕だって気付かないんだ。警備が緩すぎるって、後で殿下に伝えておいてよ」