【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜



 ――わかっている。

 エリスにとって、それは当たり前の行動であったことを。

 建国祭のとき、川に落ちた子供を助けたのと同じように、エリスにとっては、何ら特別ではないことを。


 だが、自分にとっては特別なことだった。

 そして、これからは、自分だけが彼女の特別になりたいと思っている。


 だから嫌なのだ。

 もしエリスが決闘のことを知れば、リアムの出生の秘密を知れば、きっと彼女はリアムに同情し、自分が受けた被害のことなどすっかり忘れたような顔で、リアムを許してやってくれと言うのだろう。


 それが、アレクシスはどうしても許せなかったのだ。


(本当に俺は子供だな。あの頃と、何一つ変わっていない)


 あの日エリスを突き飛ばしたように、自分はオリビアを突き飛ばし、怪我を負わせた。

 そんな自分が、こんなことを言える立場ではないというのに。



 ――そんなことを考えているうちに、馬車はエメラルド宮の正門をくぐり、次第にスピードを緩めていく。

 そうして馬車が完全に停止したことを確認すると、アレクシスは肺から大きく息を吐く。


(考えるのは終わりだ。今は、目の前のことだけに集中しろ)


 そう自身に言い聞かせ、どうにか平静を装って、エリスの元へと向かった。
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