【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
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それはほんの先ほどのこと。
馬車を降り、玄関ホールに足を踏み入れたアレクシスは、微かな違和感を抱いた。
空気がどこかピリついている、そんな気が。
(……何だ? 宮の雰囲気が……)
それは直感だった。
模様替えをしたわけでもない。使用人らの対応もいつも通り。
だが、何かがおかしい、と。
その違和感は、エリスの顔を見た瞬間、気のせいではないと確信した。
「お帰りなさいませ、殿下」
「…………ああ、今戻った」
玄関ホールで自分を出迎えてくれたエリスは、一見して、いつも通りの彼女だった。
朝と何一つ変わらない笑顔に思えた。
だが、微かに感じる違和感。
いつもより元気がないような。
それに、声のトーンが僅かに低い気がする。
本人は隠そうとしているのだろうが、隠しきれない何かがある、アレクシスはそう感じた。
(何かあったのか? だが、使用人からは何の報告も……)
使用人たちには普段から、「エリスについて何か問題が起きたときは、俺が馬車を降りてから玄関ホールに入るまでの間に報告するように」と言い含めてある。
だが、今日はそんな報告はなかった。
つまり、大きな問題は起きなかったということだが、エリスの様子を見ると、何もなかったとは思えない。
かと言って、まさかシオンとオリビアがやってきたとは考えもしないわけで、この時点ではまだ、アレクシスの違和感は単なる違和感のままだった。
けれど、「今日も変わりなく過ごしていたか?」と尋ねた後のエリスとの会話で、違和感が予感へと変わっていく。